| ―おまけ―
大晦日の夜。 寮の洗濯場の洗濯機の前で、淡いピンクのハンドタオルを手に、劉偉は悩んでいた。 「可愛いタオルだな。ファンの子にでも貰ったかい?」 氷室はまったく的外れなことを言いながら、洗濯機の中に、どう考えても多すぎる量の洗剤をぶち込んだ。 「これ・・カントクに借りたアル」 「・・えっ!!??」 何に対して驚いたのか、氷室は大きな声を上げた。 「今日教官室で話したとき、ワタシがあんまり汗だくだったので、貸してくれたアル」 「イメージと違うっていうか・・ずいぶん可愛いな」 「貰い物言ってたアル」 「ふぅん・・でも、もしかしたら自分で買ったんだったりして。案外可愛いもの好きとかさ」 「ワタシもそれは考えたアル」 劉はなぜだかクス、と笑って、再びタオルを眺めた。 「で?話は戻るけど、何を悩んでいたんだい?」 「これは一体・・どう洗うべきか?と思ったアル」 明確な答えは出ないであろうが、劉は一応尋ねてみる。 「どうって?」 「汗まみれの部活着と洗うべきか、下着もある普段着と洗うべきか・・」 「っていうか劉・・別々に洗ってるんだ?」 「1回で済むときは一緒だケド、2回のときは分けるアル」 「だったら最初から一緒だと思えばいいじゃないか」 氷室は劉の手からハンドタオルを取り上げると、すでに水が注入されつつある氷室の洗濯物が入った洗濯機のふたを開け、洗濯層の中にそれを放り込んだ。 「うわっ、ちょっ!何するアル!!」 劉は慌ててタオルを回収した。そしてそのまま自分の洗濯物が入っている洗濯機の中にハンドタオルを入れ、さらに洗剤を入れてふたを閉め、洗濯機のスイッチを入れた。劉の足元を見れば、2回目の分に残ったカゴに入っているのは、下着も含めた普段着のようだった。ふたの閉まった洗濯機を無言で眺める劉を氷室は横目で見上げた。 「今日はさすがに人がいないな」 大晦日の夜。あと数時間で年が明けるというのに、なぜ高校2年生の自分たちは洗濯などしているのだろう。帰省でほとんど人のいなくなった寮の静けさに、氷室は苦笑した。 「氷室は帰省しなかったアルか」 「親がまたアメリカ行っちゃっててさ。帰省しても誰もいないんだ」 「そうアルか・・」 「劉は?」 「ワタシは帰るのに金がかかるし、それに中国の正月は2月ネ。今帰っても盛り上がらないアル」 「そっか」 ゴゥンゴゥン、と、洗濯機の回る音が洗濯場に響く。 「監督って、オレたちより10歳くらい上かな?」 「は・・?」 あまりにも唐突な言葉に、劉は間の抜けた声を返した。 「あーでも、意外と童顔ぽいから三十路くらいいってたりして」 「急に何の話アル?」 「いや、劉って年上好きそうだなーと思って・・」 「なっ・・え?・・カントク!?・・イ、意味わかんないアル!ワ、ワタシは年下の方が好きアル!」 「へぇー、そうなんだ?うん・・でも、オレは好きだな、年上のしっかりした女性」 「・・・・・!?」 何だかよくわからないが、氷室にそう言われると、すでに何かに負けたような気がする。そういえば、ウィンターカップの会場で、金髪の年上グラマーな美人からキスを迫られたというのに軽くいなしていた男だ。年下の女からは黄色い声を浴び、年上の女からは可愛がられる男なのだ、コイツは。 「氷室は年増好みアルか」 素っ気ない声を返し、劉は洗濯場を後にした。
おしまい |