遠い記憶。 今でも時々不意に思い出す、幼い記憶だ。
バスケチームの行事か、友人宅でのホームパーティか何かもう忘れてしまったけれど、タツヤと知り合ったおかげで出来たバスケ仲間が大勢いたのは覚えている。 タツヤは少し目を丸くしてオレを見た後、「ごめん」と言ってオレの頭をポンポンと撫でるとその場を去って行った。すごくドキドキしていた。まるで嫌がるように避けてしまってタツヤに悪かったなという罪悪感と、それとは違う何か。 タツヤは綺麗な子供だった。出会った頃にはたぶん考えていなかったはずだが年齢が二桁になった頃には同性のオレでもそのことには気が付いていた。ストバスを観戦する年上のお姉さんたちから洩れ聞こえる「あの東洋人の子、綺麗ね」という声は間違ってもオレではなくタツヤに向けられた言葉だった。
*
ガキだったなぁ、と心の中で呟いた。 「どうしたんだタイガ、思い出し笑いなんかして」 寝室から出て来た氷室がネクタイを締めながら言った。どうやら昔を思い出して、頬の筋肉が緩んでしまったようだ。火神は悪戯っぽくニヤリと笑い「内緒」と答えた。 「何だよ内緒って。思い出し笑いするヤツはスケベだって誰かが言ってたぞ」 ふっ、と洩らす様に火神が笑う。暗に昨晩の行為の事を言っているのだと気付いた氷室は、眉を顰めて「うるさいな」と小さく答えた。そんな彼の声に、仕草に、いちいち愛しさが募る。火神は上着に袖を通して襟を正している氷室の腕を掴んで、少し強引に引き寄せた。 「ちょ…っと、何だよタイガ、オレもう時間が――」 腕を引いた強引さとは打って変わって、それはひどくやさしかった。ふわりと背中に腕が回されたかと思うとポンポンと軽く背を叩かれて、火神の体はすぐに離れていった。唇も、頬さえも触れないで離れていった感触は、少しの物足りなさと、気恥ずかしさと。 氷室は照れを隠す様に、グーに握った拳を火神の胸に強く押し当てて、小さく笑った。
終
|