2人だけの習慣





まぁ出会ってからいくらでもない今までの間だけでも何度か突拍子もないこと言う人だったから大抵のことには動じないつもりだったけど、今回のやつはさすがにオレもドン引いて、ものすごーく蔑んだ目で室ちんを見下ろしてたんだと思う。

室ちんは「やっぱりダメか?」って、あの人お得意の何だか残念そうな、それでいて一縷の望みを抱いた強請るような目線で見上げて来たけど、そんな色目(本人曰く無自覚らしいけどどこまでホントかわからない)はオレには通用しない。

大体やっぱりって、分かってて何でそんなフツーじゃ考えられないこと聞くの?と思ったけどそしたらアツシなら聞いてくれるかと思ってとか何とか思ってもいないこと言うのが分かっていたから止めておいた。

「オレより劉ちんのが仲良いんだから劉ちんに頼めばいいじゃん」

って、室ちんがアメリカの学校から編入してきてバスケ部入ってすぐに仲良くなってた留学生の劉ちんの名前を挙げたら、室ちんは少し拗ねた顔をして口を尖らせてしまった。

「聞いたよ、劉にも」

「え……マジで?で、劉ちん何て?」

「それ聞いて以来、口利いてくれないんだ」

「…………」

まぁ、そうだよね。

オレは案外そういうところルーズっていうか面倒くさがるところがあるけど、劉ちんわりと潔癖そうだからそういうのすげー嫌がりそうだし、下手したら室ちんのこと変態だと思ってるかも…っていうかもう手遅れかもしれない。

オレはと言えば、室ちんのこと変態とまでは思ってないけど、変人だとは思ってる。だって室ちんの望みがまったく分からないわけでもないし。でもオレがそれをしてたのは赤ん坊の頃で、家族から話を聞いたことがあるだけで、オレ自身にまったく記憶はない。

「ねぇ、まさか岡ちんや福ちんに頼んだりしてないよね?」

「!?…まさか!さすがにそんなこと言えるわけがないだろう!?」

何言ってるんだ、ってな顔をしておきながら室ちんは、

「…あ、でも主将なら或いは……」

とか言い出したから、

「バッカじゃねーの!?もう室ちんやめて、マジやめて、岡ちんの純情踏みにじるようなことだけはやめたげて!!」

と、ちょっと本気になって止めた。この顔だけは美しい変人が本気になれば、純粋な岡ちんとか簡単にその手に落ちそうだ。岡ちんはちょっとオレに感謝した方がいいと思う。

「じゃあやっぱりアツシしかいないよ」

「なんでそーなるの」

「強情だなぁ。じゃあ、1回につきまいう棒一本でどうだ?」

「……え?」

強情って誰がだよと思った直後、オレは室ちんの誘いの言葉によって大きな間違いを犯した。
まいう棒なんかに惑わされちゃ、いけなかったんだ。

「どうだ?」

「い、一本じゃちょっと……」

「じゃあ2本でどうだ?」

「う……っ、に、2本?1回で?」

「ああ、1回で、だ」

「それって、1日1回くらい?」

「うーん、そうだな……まぁそれくらい?多くても1日2回で我慢するよ」

「じゃあ例えば1日2回した日はまいう棒4本くれるってこと?」

「そういうことになるな」

「…………」

「悪い話じゃないだろう?べつにキスや性行為を求めてるわけじゃないんだし」

「うん…でも……」

「一度だけ試してもいいかい?それでどうしても不快だったらアツシのことは諦めるよ」

「え?っと、オレのことは…って?」

室ちんはオレの問いなんて聞かない振りをして、一方的にオレの手を掴んだ。
どうしてそこで拒否らなかったんだろう。最初に言われた時は、この人頭おかしい、とさえ思ったのに。
まいう棒のせいじゃない。たぶんオレが拒んだら最後、この人は喜んでそれをしてくれそうな人を探し始めそうだと思ったからだ。

「気持ち悪かったら目を瞑っててくれ」

そう言って室ちんは、そう大きくない形の良い唇で、オレの人差し指をパクリと咥えた。






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「なぁアツシ、指をしゃぶらせてくれないか?」



室ちんが唐突にそんなことを言い出したのは、インターハイが終わって、編入生の室ちんが本格的に部活に参加し始めた頃だった。

知り合ってまだひと月とかそれくらいだったけど、大会で東京に行ったとき二人で観光するくらいには親しくなっていたし、バスケに関してもやたらと絡んできたので自然と一緒にいる時間は多かった。

でも、だからってこんなこと聞く?フツー。オレは当然「はぁ!?」って聞き返したけど、室ちんはいかにも困った風に首を傾げて「頼むよ」と言って両手を合わせた。

何でも室ちんは、赤ん坊のころから指しゃぶりをしていたらしい。
実はオレもそれは一緒で、親とか兄ちゃん姉ちゃんからも聞いたことがある。ただ、オレの場合は兄姉も多くて構ってくれる人が多かったせいか、1歳を過ぎて立って歩けるようになったら自然と指しゃぶりはなくなったそうだ。因みに左手の親指で、眠りながら親指をしゃぶっている写真が唯一オレが指しゃぶりをしていた証拠であり、オレとしては実感のない記録としてのみの記憶だ。

一方の室ちんは、やっぱり赤ん坊のころから左手の人差し指をしゃぶっていて、それがなかなか治らなかったと言った。3歳になっても4歳になっても起きてるときでもしゃぶっていて、エレメ…何とかスクールっていう日本で言う小学校に上がったらさすがに自分で恥ずかしいって気付いて外ではしなくなったけど、それでも家に帰ってテレビとか見てる時に気付かずしゃぶってる時があって、「そしたら母さんなんて言ったと思う?」って室ちんが聞いてきた。

「さぁ…何て言ったの?」

「そんなに指が美味しいなら、ママの指をしゃぶったら?って」

「へ、へぇ……それでまさか室ちん、お母さんの指しゃぶったの?」

「え、あ、あぁ…っていうか、たぶんそのとき初めて、他人の指の気持ちよさに気付いちゃったんだと思う」

「うわぁ……」

室ちんのママさん何てことしてくれちゃったわけ?ってか6歳だか何歳だか知らねーけど、母親の指とかないわぁ〜ってドン引いたところで室ちんの苦笑する顔がものすごく整っていて綺麗なことに気付いて、ってことはきっと室ちんのお母さんもすごい美人で、だから室ちんも抵抗がなかったんじゃないかな、ってそのときは無理矢理そう思うことにした。

「まさかこっち来るまでお母さんの指しゃぶってたとか?」

オレが怪訝そうな眼差しを向けると、「さすがにそれはないよ」と言って室ちんは笑った。

「しばらくそうしていたんだろうけど、やっぱり恥ずかしくなってさ。その後はこっそり一人のときにしゃぶったり、あとはまぁ、他を当たったり?」

「……他って」

「え?……内緒」

室ちんの意味ありげな含み笑いを見たオレは、それ以上を知っちゃいけないと悟った。この人に対する認識をせめて”変人”で留めておくためにもそうするべきだと思ったオレはきっと正しい。

そうしてオレは眉を歪め、たぶん蔑んだ目で室ちんを見下ろしたのだ。






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室ちんの口に咥えられたオレの人差し指の先は、生温かい湿り気に包まれた。

もちろんこんな経験は初めてで…と思ったけど、すごく小さかった頃、指先にちっちゃい棘が刺さって、何やっても取れなくて、しまいには裁縫用の針で指先ほじくられてそれでも取れなくて泣き出したとき、それが家族の誰だったかもう思い出せないんだけど、指先をちゅーちゅーと強く吸ったら取れた、ってことがあったのを不意に思い出した。だからこの行為は、オレにとって初めてじゃあない。

だけど何だろう。室ちんの唇のやわらかさと、第一関節から上だけで動きづらそうに蠢くざらっとした舌先の感触は、オレの気分を高揚させた。顔を顰め、目を細めて見下ろしたら室ちんはニヤって笑って、それからオレの指をもっと深くまで咥えた。オレの指の第二関節近くまでが、するりと室ちんの口の中に滑り込んでいく。

「うゎ……っ」

って思わず声が出ちゃって恥ずかしくて上を向いたけど、室ちんが笑っているのは分かる。きっと、相手を手玉に取ったようなあざとくて悪い顔だ。それでもこの人の顔は綺麗なままなんだろうなと思うと見下ろして確認したくなるんだけど、それやったら室ちんの思うつぼな気がしたから必死で上を向いたままでいた。

室ちんの口の中をオレの人差し指が前後する。オレが指を動かしているわけでも、室ちんが顔を動かしているわけでもない。室ちんの上顎と舌で咥えた指を吸えばそれはスルッと中に引き込まれ、舌を使って押し出せば、指もぬるぬると押し出されていく。それを何度か繰り返されると、その度に指の付け根から手のひら、腕を伝って二の腕あたりまでがゾクゾクと震えた。我慢ができなくなって下を見てしまったら、オレの指を出し入れする室ちんの口元と室ちんの綺麗な顔が目に映って、その光景がなんでこんなにいやらしく見えるのかは男なら分かることで、運悪くそこでチラって目線を上げた室ちんと目が合っちゃって、そしたらそんな気全然ないはずなのに、オレのあそこが大きく反応してしまった。

絶対室ちんに気付かれたくないから何気なく少しだけ腰を曲げたりしたんだけど、オレをじっと見上げて指をしゃぶっていた室ちんは、ゆっくりと口から指を引き抜いた。室ちんの唾液を纏ったまま空気に晒された人差し指が、すうっと冷えていく。

「交渉成立だな」

と言って、室ちんは笑った。

それはあざとい悪い顔ではなく、オレを包み込むようなやさしげな微笑みだった。

その日からオレと室ちんの、2人だけの習慣が始まった。



*



一年以上が経った今でも、毎日ではないが室ちんはオレの指をしゃぶっている。

朝、起き抜けで朝立ちとかしてシコってても、手にお菓子のカスが付いてても、部活の後で汗だくでも、周囲に人がいないことを確認さえすれば、室ちんにとってオレの指の状況はお構いなしだった。そして必ず、その場になければ後からでも忘れることなく、室ちんはまいう棒をくれた。
ホントはもうまいう棒なんかいらなくて、そんなもの無くてもこの2人だけの習慣を止める気なんてないんだけど、室ちんはオレに必ず、まいう棒をくれる。
あの日から、オレがオナるときのオカズは時々だけどオレの指をしゃぶる室ちんになった。もしもあそこをしゃぶっても室ちんはこんな感じなのかなとか思うと、オレはすぐにでもヌケた。
そんなこと思ってるって室ちんには気付かれないようにしてたし、室ちんも何も言わないけど、約束だから、と言ってその度にくれるまいう棒を室ちんは、オレの衝動を抑える枷にしているんじゃないか、って思うことがある。

夏が終わって秋が来て、長い冬が始まりウインターカップが終わって年が明けた頃には室ちんはもうバスケ部にはいない。そして冬が終わったら、室ちんは学校を卒業してこの寮からもいなくなる。



オレがそれをしてやらなくなったら、室ちんはきっと次の誰かを探すんだろうな。
オレの知らないどこかで、オレの知らない誰かと。

そう思ったら、狂おしいほどにあの人を自分だけのものにしたくなった……っていうしょーもない欲望は、室ちんには永遠に内緒だ。










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室ちんが幼少期からアメリカにいる設定になってしまいました;;;見逃してください…。

 

 

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