同性の後輩-交配- **
「お願いです、福井さん……助けて……」 座り込んでいる氷室の口から、小さな声が洩れる。 「うん、どうした?」 福井は氷室に近付くことなく、その姿を机の影にしたままに、これまでより穏やかな口調で尋ねた。けれど氷室の口からは、「ハァ」とか「うぅ…」とか、何だか苦しいというよりも情けないような声しか聞こえてこない。福井は少し大きなため息を吐いて氷室の傍に寄り、ゆっくりとその場にしゃがみ込んだ。 「なぁ、だからどうした?」 氷室は俯いていて、その表情は見えない。さっきもちらと目にした氷室のものは未だ勃起することなく、同じ形のまま手に握られている。 「まぁ何だ、とりあえずそれ―――」 「満足がいくまで練習した後、体が昂ることって、ないですか…」 とりあえずそれしまえよ、と言おうとしたが、福井の声を遮るように、氷室は吶々と話し始めた。 「練習が、充実するほど、体が昂っていくんです……どうしようもなく。体は疲れているのに、中から何かが湧き上がってくるみたいに、我慢できないくらい、イきたくなる……んです」 ああ、わかる。わかるよ、氷室。 練習中に、試合中に、新しい技を習得できたり、思い通りのプレイができたり、その時は気付かないのだけれど、まるで興奮の余韻みたいに体の中心に何かが集まってきて、溜まっていって、暴発しそうになる。どんなに体が疲れていても、いやむしろ、そこまで体を追い詰めた時ほど、溜まったものが溢れ出しそうになる。 「ああ、わかるぜ氷室。オレにも覚えがあるよ」 「本当ですか?」 「でもなぁ、だからってお前、場所をわきまえろよ、な?」 ふと顔を上げた氷室の表情は、ひどく力なく、憂いを帯びていた。何だか泣き出してしまいそうなその顔は、それでも学校一の美形と称されるだけあって単純にキレイだと思う。福井はそんな後輩を苦笑交じりに見つめた。 「でも福井さん‥…」 「ん?」 「イけないん、です……」 「は?」 「ものすごく昂っていて、放っておいてもイってしまいそうなくらいに溜まっている感じはするのに……イけないんです、どうしても……」 「勃たねーってこと?」 氷室は無言で小さく頷いた。 「あー、そりゃあお前」 それもわかる。痛いほどに。体の疲労がピークを超えると、寝ることで疲労自体は回復しても、体の内側の機能が疲れを認識したまま元に戻らないことがある。少し自分と性格も似ているのだろうか、新主将としての重圧なんかも関係しているのかもしれない。 福井はそっと手を上げて、氷室の頭をぽんぽんとやさしく撫でた。 「お前さ、練習のし過ぎだ」 「え?」 「自分を追い詰め過ぎなんだよ。少し練習ほどほどにしてみな? そうすりゃ驚くほどちんこ勃ちまくるから」 「…………」 氷室は何も答えずに、けれどほんの少し口元を緩めた。福井の明け透けな言葉が可笑しくも、有り難い。 それでも。 「でも、苦しいんです、福井さん……」 この体の疼きを今、たった今、何とかしたい。 「助けて、ください」 「ちょ、おいっ、お前なに……してんの!?」 萎えたままの自身のペニスから手を離し、氷室はせっかく着替えたはずのネクタイを解き、ワイシャツのボタンを外し始めた。一体何が始まるのかまったく予想が付かないが、福井自身が巻き込まれる可能性だけは理解が出来た。待て待て待て、と心の中で呟いて、福井は髪をがしがしと掻きむしる。 「あのなぁ、ワリーけどオレにお前は助けらんねーよ? いいから今日はもう帰れ、てか一緒に帰ろう、な?」 そう言って立ち上がろうとした福井の手を、氷室は跪き、追い縋るようにして掴んだ。 「待って―――」 「お、おい……っ」 ちょっと待て今この手お前のちんこ掴んでただろ、と抗議する間もなく手を引かれ、がくんと床に膝を突いた福井は、氷室に抱き締められた。強い力ではなかった。振り解こうと思えば振り解ける程度の抱擁だ。頬と頬が、直に触れる。氷室の頬は男のくせにひどく滑らかで、そして氷のように冷たかった。部室内には電気ファンヒーターが点いていたが、まるで役に立っていなかったらしい。この部屋にたった一人で、もうどれくらい冷たい床に座り込んでいたのだろうか。 「助けて……くれないんですか」 果たしてこいつは、こんな子供みたいなわがままを先輩に言うような後輩だったろうか。 福井は小さなため息を吐いた。今の心境は、自分勝手なわがままを言って泣きじゃくる弟に、仕方ないなと何かを譲るばかりだった遠い記憶とどこか似ている。福井はあやすように、氷室の背中をぽんぽんと軽く叩いてやった。 「オレが触って扱いてやるとかは、ぜってー無理だからな」 こくんと頷いた氷室は、福井の耳元で「ありがとうございます」と小さく囁いた。 |