同性の後輩-交配-
「キス、してもいいですか?」 「……」 いきなり尋ねられ答えに詰まったが、男とキスをするような趣味はない。福井は「ダメだ」と即座に拒否をした。わかりましたとすんなり答えた氷室は、福井をやさしく抱き締めたまま、何度も頬を摺り寄せてきた。普段は決して触れることのない肌の感触はやわらかく、福井の体温が移っていったのか、冷たい頬が次第に温まっていく。猫みたいに何度も頬を摺り寄せてくる氷室が、再び自身の萎えたペニスを手で握り始めたのが何となく分かった。 ものすごく、変な気分だ。氷室の顔の造作が美しいというのはもはや周知の事実で、何も福井の思い込みではない。女性人気は学校一であり、それは女子生徒に限らず、購買や食堂のおばさんたちも氷室が通ればとりあえず目で追うことだろう。そんな綺麗な同性の後輩が、なぜだか今、目の前で、体を密着させてきて頬を摺り寄せ、マスターベーションを始めている。これはどうしようもなく、変な気分だ。 「氷室」 「はい……」 「あの、な」 どうしてそんなことを言ったのだろう。氷室が美形であるのは認めるが、その容姿に対して魅せられるだとか、色気を感じるといったことは一度だってなかったはずだ。魅せられたことがあるとしたらそれはレベルの高い彼のバスケのプレイに対してであって、だからきっと、そのバスケの技術をさらに高めるために練習をし過ぎて苦しんでいる後輩を見捨てられなかっただけだ。 「キスくらいなら……してもいい、ぞ」 氷室の動きが一瞬止まった。 と思ったのと同時に、即座に唇を塞がれた。重ねられた唇は、まるで飢えていたみたいに福井の唇を貪り始める。キスをすることは初めてではなかったが、男の氷室に舌を差し込まれ、口内を好いように侵される感覚に、何故だか体の奥がぞくりと震えた。唇が交じり合い、唾液が絡まり、くちゅ、という音が立って、それが福井の耳の奥にするりと届くとまた、体の奥が震える。 変な気分? そうじゃない。これはおそらく、快感というやつだ。 「ハァ……ッ」 ようやく離れた唇を、名残惜しいとさえ思う。性欲が溜まってもイけない氷室のことを可哀想だと思ったりもしたが、オレだって大概だ。より興奮した状態でイきたいのは、誰だって同じだろう? 「どうだ氷室? 勃ったか?」 「ん……っ、福井、さん……っ」 「……ぶっ……」 明確な返事はないままに、福井は唐突に頭を抱えられた。顔が、ワイシャツを開いた氷室の胸に埋まる。一体氷室が何をしたいのか要領を得ない。福井は氷室の胸の中から、その顔を見上げた。 「いじって、ください」 「へ?」 「女性にするみたいに……ここを」 「お前、何言って……」 言いかけて、福井は口を噤んだ。バクバクと大きな音を立てる心臓の音が耳の奥に響く。心も、体も、どうしようもなく昂っていることに気付いてしまった。面倒見のいいデキた先輩面なんか、部活も引退した今、もうどうでもいいと思った。 膨らみのない胸に顔を寄せ、小さな突起に唇で触れると、氷室の体がビクンと大きく揺れた。舌先で触れる度に、突起がつんと硬く変化する。触れるだけでなく唇で軽く食むと、「あぁ、ん」という声が氷室の口から洩れた。堪らずに、福井は夢中で氷室の乳首を愛撫する。舌先で突き、口に含んでクチュクチュと吸う度に、氷室は何度も体を捩って声を上げた。 「福井さん……こっち、も……」 氷室は福井の手を掴み、愛撫されていない方の乳首へとその手を誘う。片方の乳首を唇で弄り、もう一方の突起を指先でくりくりと摘まめば、氷室は「あっ、あっ、」と短い声を上げて自身のペニスを扱く手の動きを速めていく。 「んん……っ、あっ、あぁ……も、もう……っ」 氷室の手が高速で動いているのが分かる。ああ、イきそうなんだな、良かったなと思うと同時に自身の体も十分に変化を遂げていることに気付かないはずはなかったが、それでも今は、可愛い後輩がオーガズムを得ることを最優先に思い、福井は氷室への愛撫を続けた。 やがて氷室の動きが止まり、下半身をビクンと震わせた。福井がゆっくりと胸から顔を離して見下ろすと、氷室の手の中には白濁色の精液がとっぷりと溜まっていた。
「良かったじゃん、イけて」 「不能になったかと……正直、かなり焦りました」 「んなことあるかよ、そんないっぱい出しといて」 「その……ありがとう、ございました」 机の上に置いてあったバッグの中からタオルを取り出して、氷室はそれで手の内の精液を拭った。会話の口調はお互いに何気ないが、まだ、少しも興奮は冷めてはいない。礼を言った氷室が徐に顔を近付けてきて、唇が、触れる。軽く触れたはずの唇は、すぐに深く重なり合った。 「福井さん」 「ん?」 「すごく、勃ってます」 口付けの後、顔を離した氷室は福井の股間にそっと手で触れた。 「ちょ、おい……」 「福井さんも、出したいでしょう?」 「何だよ、お前が……何とかしてくれんの?」 「挿れてみませんか?」 「は?」 いれるって、どこに? そして、何を? 言葉の意味が分からずに福井が訝しげに眉を顰めると、氷室はその心を読んだかのように、さらに言葉を加えた。 「福井さんのを、オレの中に……挿れてみませんか?」 「は、はぁ!?」 いやいやいやちょっと待て、何とかするってそういうことじゃねーよ違う違う! 意味が違うだろ氷室!! 瞬時にそう思ったが声にはならず、福井はあんぐりと口を開いたまま、呆けた顔で氷室を見つめる。 「お前さぁ」 「はい」 「ホモなの?」 「……え?」 氷室は少しだけ驚いた表情を見せてから、「さぁ?」と言って、答えを濁すようにニッコリと笑った。 「まぁ、お前の性癖はどうでもいいとして、男同士ってアレだろ? ケツの穴に入れんだろ? それってどう考えても無理なんだけど」 「それは、穴が小さいから無理だろうとか、汚いだろうとか、そういうこと、ですか?」 「あー、まぁ、ぶっちゃけて言えば、そう……だけど」 「女性より、気持ち良いらしいですよ」 「オレ、女も知らねーんだけど」 「奇遇ですね、オレもです」 果たして何が、どこまで本当なのだろう。福井とて、氷室ほどではないがまったくモテないわけではない。彼女がいた時期もある。ただ、寮生活を送っているせいもあって、セックスをする関係にまでは至らないままに別れただけだ。じゃあ、氷室の場合はどうだ。そういえば、学校一女にモテるはずのこの男に、彼女がいるという話を聞いたことがない。 氷室は机の上のバッグを引っ張って、床に落とした。片手で中を探り、何かを取り出す。 「ちゃんと入るようにしますし、ゴムを着ければ汚くもないでしょう?」 取り出したのは、透明の液体が入った小さなプラスチックボトルと、勘違いでなければコンドームというやつだ。生まれてこの方、使ったことなどないけれど。 「お前、挿れて……欲しいの?」 「…………」 問いには答えずに、ゆっくりと立ち上がる。 「鍵、ちゃんと閉めましょうね」 氷室は福井を見下ろして、笑った。 |