かがひむの情事に遭遇してしまった
誠凛の方々の話





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「やっぱりちょっと何か、気が引けるな」

そう言いながらも、誠凛高校バスケ部主将の日向は、とあるマンションの玄関の鍵を開けた。
そっとドアを開き、小さな声で「おじゃまします」と言いながら中に入った日向の後に、同じく「おじゃまします」という控えめな声が続く。

ここは、誠凛高校バスケ部員である火神大我が一人暮らしをしているマンションの一室である。
当の火神は、春休みを利用して親元であるアメリカに帰っている最中だ。
なぜ日向が鍵を持っているのかといえば、火神が預けてくれているからだ。例えば練習試合の帰り等、学校以外の場所でミーティングを行いたいときに
10人以上で席を確保できるファミレスやファストフード店を探すのはなかなかに難しい。学校以外の場所に出向くのは土・日曜日が多いので、なおさらだ。そんなときにはよく火神のマンションを利用させてもらっているのだが、ある日、「オレがいなくても使っていいっスよ」と言って鍵を渡された。日向が「エロDVDがないか粗探しするかもしんねーぞ」と冗談ぽく言ったら「んなモンないんでべつにいいっスよ」と即答されたので、本当にそういったものはないのだろう。もっとも、鍵を預かってからこれまでそういう機会もなかった。そして火神が日本にいない今、初めてその機会が訪れたのだ。

今日は埼玉のとある高校まで練習試合を見に行った。非常に有意義な観戦だったので、今日のうちに分析しようという話になったのだが、乗り換えの都心の駅まで戻って来たときにはすでに夕方近く、学校に向かうよりも火神宅の方がはるかに近かった。というわけで、初めて住人不在のマンションにやって来たわけだが、気分はまるで不法侵入者だ。靴を脱ぎ、玄関を上がってそろそろと廊下を歩き始めたのは、日向・伊月・水戸部・木吉・小金井と、一学年下の黒子の6名。
監督の相田リコは、関東大会都予選の代表者会議に出席するため都内の高校へと出向いており別行動であったが、後程ここで合流する予定だ。
黒子と同学年の降旗・河原・福田の
3名は、近くのコンビニで飲み物と菓子類を買ってからここに来る。
土田は練習試合の観戦はしたが、元々今日は部活がオフの日で試合観戦も自由参加だったので、試合のあった埼玉県某市で別れた。たぶんデートの予定が入っていたのに一人だけ参加しないわけにもいかず、けれど彼女への気遣いも忘れない優しいツッチーのことだから試合観戦だけして夕方からデートという苦渋の選択したんじゃねーの、不憫なヤツ・・というのがメンバーによる無責任な推測だ。

少し長い廊下の最奥に、いつも皆で集まるリビングのドアが見える。廊下の半分ほどリビングへと近付いたとき、先頭を歩く日向の足が止まった。

「いて・・っ」

立ち止まった日向にぶつかってしまった伊月が声を上げると、日向は「し・・っ」と言いながら、人差し指を顔の前に立てた。

「誰かいる・・」

思いもよらぬ日向の言葉に、「え?」という潜めた声は、34人分重なった。

「な、なんで?火神帰ってくんの明後日じゃないの?」

リビングの入口のドアが少し開いている。外はまださほど暗くはないが、カーテンが閉まっているであろう薄暗い部屋には電気が点いていなかった。

「強盗とかだったらヤバくないか?」

「だとしても放っておくわけにもいかないよな、火神んちだし」

「や、そうじゃなくて・・」と、日向が語尾を濁す。

「何だよ?」

「声が・・する」

「声?一人じゃないってこと?」

「それが何つーか、アレの声っていうか・・」

「アレじゃわかんないよ」

「喘ぎ声・・ですね」

日向が躊躇った言葉を黒子があっさりと口にした。

「はぁ!?」

「喘ぎって、おいおい・・」

「だ、誰のだよっ?」

「シーッ!シーッ!!」

6人はワタワタと慌て、それでも足音を立てないように、小走りで玄関まで戻った。

「火神のやつ、帰って来てんのか?」

「エロDVDなんてないんじゃなかったのかよ」

DVDじゃないと思います」

「・・・へ?」

「あの薄暗さなら、テレビを点けていれば多少なりとも明かりが見えるはずです」

「なるほど」

「じゃあ誰だ?」

「・・・火神?」

「・・・・・・」

「火神に彼女いるって聞いたことある人〜」

答えはわかっているけど一応聞いてみた小金井の声には、誰の手も上がらない。

「あ、あれじゃないかな?師匠のあの人」

「アレックスさん・・だっけ・・?」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

人前に平気で裸で出て来たり、火神に対して挨拶にしては行き過ぎなキスをしてみたり、といった光景を目の当たりにしてはいたが、彼女のその態度は、どう見ても火神を男として見ているとは思えなかった。あくまでも可愛い弟子、それ以上でも以下でもないような、そんな関係に見えた。だがそれでも、ゼロではない可能性に、暫し誰もが無言になる。

「や、やっぱエロDVDじゃないか?」

「持ってないなんて言ってたけど、絶対見つからないとこに隠してるんだぜアイツ」

「でも、テレビ点いてないって・・・」

「暗い部屋のシーンなんじゃないかな」

「それあり得る・・かも・・」

大いにプライバシーの侵害であるとわかってはいるが、答えに辿り着かないこの状態はどうにもスッキリせず、胸がもやもやする。

「よし、黒子」

「あ、はい」

「こっそり見て来い」

「・・・・・どうしてボクなんですか」

日向の声には納得いかない風に、黒子はほんの少し口を尖らせる。

「お前の影の薄さならきっと気付かれない」

「こういうときに重宝されても・・」

「先輩命令だ、行け」

「他人の情事を覗き見するなんて趣味が悪―――」

「先輩命令だ、っつってんだろーがよ」

「く、黒子、日向のスイッチ入っちゃうから早く」

「はぁ・・・」

渋々と返事をした黒子は、小さなため息を吐きながら、忍び足でリビングへと向かった。







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