Illustration by ひむら様

 

 

 

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若い二組のカップルのほんの興味本位からそれは始まった。

退屈凌ぎの遊びは若気の至り。組み合わせはあみだで決めた。青峰と火神。黄瀬と氷室。青峰は、黄瀬が火神に抱かれるくらいなら氷室の方がましだと思ったし、同様に火神も、氷室が青峰に抱かれるくらいなら黄瀬の方が許せると思って、あみだの結果に頷いた。自分の恋人たち同士がどんなセックスをするのか。それはそれで、想像すれば良い興奮材料となるというものだ。

と、単純に思っていた。




「どうせ通り道だし、神社寄って行こうぜ」

新/宿の焼き肉店で山のような肉を平らげ、ほろ酔い気分になる程度に酒を飲んだところで、唐突に青峰が言った。

「いいっスね」

答えた黄瀬が、くすくすと肩を揺らして笑う。
二人の向かいに座る火神と氷室は、顔を見合わせて首を傾げた。

その神社はビルとビルの間を入った細い参道の奥にあった。都会の真ん中のこんなところに? と思うような場所だ。参道を抜けるとそこは開けていて、けれど夜ということもあり拝殿はすでに真っ暗で、いくつか点いている外灯の明かりが僅かに境内を照らしている。酉の市など祭り事の際にはそれは人で賑わう場所だが、何もない平日の夜である。極たまに近道のために境内を通り抜ける以外、人影もなかった。

「そういや氷室さん、陽泉高校ってキリスト教じゃなかったっけ 鳥居くぐっちゃったけど平気っスか」

「ああ、全然。一応宗教教育は受けたけど、運動部なんか特に敬虔な信者なんていなかったし、オレもそうだし大丈夫だよ」

「なら良かったっス」

言いながら黄瀬が青峰に目配せをすると、青峰がにやりと笑った。何かを企んでいるようで気味が悪い。

「何なんだよお前ら、気持ちわりーな」

「いーからいーから火神っち、こっちっスよ」

黄瀬が火神の袖を引く。青峰も氷室の背中を押した。かと思うと、親しげに肩を組んできた。氷室は少し驚いて青峰を見上げたが、酔っているのか青峰は何やら上機嫌だ。彼と会ったのは初めてではないが、いつでも火神と黄瀬と四人セットであったし、お互いにお喋りというわけでもないので直接的な会話もほとんど無いに等しい。何だか心地悪かったが、酔っているのなら仕方がない。まぁ、いっか、と氷室は青峰に肩を抱かれながら歩いた。ところが。

「氷室サン」

「?」

酔っぱらいだと思っていた青峰は、至極冷静な声を掛けてきた。氷室はあらためて、青峰を見上げる。

「何?」

「あんた、そばで見るとホント綺麗なんだな」

「……え?」

ひょいと顔を覗き込まれて顔がぶつかりそうになって、氷室は慌てて足を止めた。青峰が、にやりと笑う。

「悪いけどオレ……そう言われるの好きじゃないんだ」

「へぇ、黄瀬なんか人に言われると単純に喜んでるけどな」

「だったら黄瀬君に言ってあげなよ」

顔退けてくれるかな、と指先で額を押すと、青峰は素直に体を起こした。

「言ったぜー、お前の顔は作りが綺麗だけど氷室サンの綺麗は違うんだよな、って」

「どういうこと?」

「お前にはねー色気がある、って言ったら脳天にゲンコツ食らった」

「それはひどいな」

「だろ?」と同意を求める青峰に、「違うよひどいのはキミだよ」と呆れ顔で答えると、青峰は「やっぱし?」と言ってからハハハと声を上げて笑った。氷室も釣られて笑みを零す。と、組まれたままの青峰の手に、力が込められた。

「オレさ、あんたとならヤれっけど、黄瀬のヤツが火神に掘られんのはちょっと嫌なんだわ」

「ずいぶん虫が良いんだね」

「ああ、そうかもな。だから―――」

ぐい、と肩を抱き寄せられた。少し戸惑う氷室の耳に唇が触れ、体がビクッと跳ねる。触れた青峰の唇が、耳元で囁いた。

「今度、オレとセックスしねぇ?」

「……っ」

低い声とともに吹き込まれた吐息に再びビクッと肩が跳ねる。咄嗟に答えることができなかった。何言ってるんだと突っ撥ねれば良かった。そうすれば彼の、あんな顔を見なくてもよかったのに。
先に目的地に着いてこちらを見ている黄瀬と、目が合った。常に笑ったり怒ったり拗ねたりと、コロコロと忙しく表情の変わる彼の、無表情。感情のない視線が、怖かった。

「遅いっスよ、早く!」

そう声を掛けてきた黄瀬は、いつもの黄瀬だった。




向かった先は拝殿ではなく、鳥居の入口だった。そう大きくない赤い鳥居が十メートル以上に渡りいくつも連なっている。最奥には祠らしきものが見えた。

「二人でこの奥まで行って、上を見上げて欲しいっス」

「は? お参りとかじゃなくてか?」

「んで、写メって来いよ」

「お、おう」

火神は首を傾げながらも、行こうぜ、と言って氷室の背をぽんと叩いた。

「こう暗いと、さすがになんか気味わりーな」

「タイガ、怖いのかい?」

「んなわけねーよ」

「本当に?」

くす、と笑った氷室が火神の手を握る。火神は驚いて氷室を見下ろした。

「あいつら見てるぞ」

「うん、でもいいだろう? 何だか、こうしたい気分なんだ」

「カップル交換、嫌なら止めっけど?」

「それはべつに構わないよ」

構わないのかよ、と苦笑して肩を竦めた火神に向けて、新境地を開拓してくるよ、と言って氷室は笑った。

―――セックスしねぇ? ―――と言った青峰の声が頭を過ぎる。氷室は繋いだ火神の手を強く握った。



二人は鳥居の最奥に辿り着いた。そこには何の変哲もない祠があるだけだ。そういえばと黄瀬の言葉を思い出し、二人はふと上を見上げた。

「な、なんだこりゃ」

「クレイジーだな……これは一体……」

何なんだ? と、二人は顔を見合わせた。

見上げた先にあったのは、巨大な男性器であった。正確に言えば、男性器を模った御神体である。一メートル、いや、一メートル五〇センチはあろうかという木で作られた巨根は赤茶色に塗られ、光沢があった。付け根と亀頭の下あたりを紐で括られて、祠の屋根の下に吊り下げられている。
火神と氷室は再度顔を見合わせた。プッともクッともつかない声を洩らしたかと思うと、次第に肩が揺れ始め、ついに二人は声を上げて笑い出した。

「これを見せるためにわざわざここに?」

「あいつらくだらねぇな、ホントくだらねぇ」

ひとしきり笑った後、二人は再び鳥居の下を歩いて青峰と黄瀬の元へと戻った。

「おーう、ちゃんと写メったか?」

「撮るか! あんなモン!!」

「どうスか? 氷室さん」

「まったくおかしな国だよ、日本は」

通勤帰りなのか遊んだ帰りなのか、境内を時折人が横切って行く。ケラケラと笑い合う四人の姿は友達同士で遊んで騒ぐ若者にしか見えず、まさか二組のカップルなどとは誰も思いもしないであろう。

「んじゃ行くか」

「そっスね」

青峰と黄瀬の言葉に火神と氷室も頷いて、四人は神社を後にした。




道路に出るとすぐそばにコンビニがあり、青峰と黄瀬は当たり前のようにそのコンビニに入った。「明日の朝飯買っとけよ」と言われ、火神と氷室も買い物をする。氷室が会計を済ませると三人はすでに店の外にいて、慌ててレジ袋を手に氷室も外に出た。

「ごめん、お待たせ」

「んじゃ、ここで解散な」

「 「え?」 」

火神と氷室の声が重なった。

「明日は十時に神社でいっスかね?」

「いーんじゃね?」

勝手に話は進んでいるが、どうやらここで二手に分かれるようだ。青峰が黄瀬に何か耳打ちをしている。「それはどうっスかね〜」と答えた黄瀬の頭を青峰がパシッと叩き、それでも黄瀬はどこか嬉しそうな表情で叩かれた頭を擦った。

二人並んで歩く組み合わせが、青峰と火神、黄瀬と氷室に変わる。大通りと逆方向へと歩き始めた四人は、最初の十字路で左右に別れた。





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