| 栗の花の咲く頃 2
部室のドアを開け中に入ってきた緑間は、部屋の真ん中あたりに置かれたベンチに座る桃井の姿を見て、そう問い掛けた。 「だって今日、鍵当番だし」 お疲れ、という言葉に続けて、桃井は緑間に答えを返す。 「黄瀬の自主練が終わるまで待っているつもりか」 「うん・・そのつもりだけど?」 「鍵など黄瀬に預けて帰ればいいだろう。他の奴は皆、そうしているようだが」 「あ、そうなんだー」 会話をしている間にも、緑間はTシャツを脱ぎ、タオルで汗を拭う。さらにハーフパンツも脱ごうと手を掛けたところで、桃井は「ごめん、出てようか?」と立ち上がりかけたが、緑間は「向こうを向いていれば問題ないのだよ」とだけ言って着替えを続けたので、桃井は「そう?」とひと言返し、緑間に背を向けてベンチに座り直した。 「例えば――」 緑間は、さらに話を続ける。 「自主練のラストが黄瀬でなくても、やはり待っているのか?」 「・・・え?」 桃井は思わず振り返った。振り返った視線の先では、緑間が制服のズボンを穿こうとしている。一瞬だけ目が合い、桃井は慌ててまた、背を向けた。 「それって例えば・・ラストがきーちゃんじゃなくてミドリンだったら、ってこと?」 「手っ取り早い例えで言えばそうなるな」 「だってミドリンは、鍵置いて先帰っていいって言うでしょ?」 「それはそうだが・・それじゃあ答えにならないのだよ」 「えーっと・・それってもしかして、やきもち?」 「なっ・・なぜそうなるのだよ!!!」 「だって、ミドリンも待ってて欲しいのかな、って」 「手っ取り早い例えだと言っただろう!」 背中に向けて、緑間の焦った風な声が飛んで来る。 桃井はクスクスと笑った。 「みんなには内緒だよ?」 バタン、とロッカーを閉める音がしたので、着替えは終わったのだろうと桃井は緑間へと振り返った。すっかり身形を整えた緑間をちょいちょいと指先で手招きをして自分の隣りに座るように促すと、緑間は怪訝そうな顔をしながらも、桃井の隣りに腰掛けた。緑間は手に、少し大きめの湯飲み茶碗を持っている。これがきっと今日の彼のラッキーアイテムなのだろう。ちら、と茶碗に目を向けると茶碗の表面には”さかなへん”の付く魚の名前がびっしりと書かれてあった。寿司屋によくあるあれだ。桃井の顔は一瞬引き攣ったが、あえて何も触れずに緑間に向けて話し始めた。 「きーちゃんと一緒に帰る日はね、女の子情報を収集してるの」 「女の子情報?」 緑間の口から発せられた”おんなのこ”という響きは何だか彼には不相応で、桃井はくす、と笑いを堪える。 「うん、流行りそうな服とか、コスメとかを教えてもらうの」 「こすめ?」 「んーっと、化粧品とか美容用品っていえばいいのかな」 「・・・ああ」 恐らくわかっていないだろうが、納得してくれればそれでよかった。 「きーちゃんってそのへん雑誌よりも詳しいから、話聞いたり、たまに二人でマツ●ヨ寄ったりするんだけど、そういうの女子並みに詳しいっていうのを男子に知られるのイヤなんだって」 「・・・そんなの今さらじゃないのか?」 緑間は呆れた風な口調で言って、眉を顰めた。黄瀬が部内や学校どころか世間的にも流行りの先端をいっているのは、もはや周知の事実だというのに。 「そうかもしれないけど、きーちゃんアレで結構気にしてるんだよ?モデルとバスケ両方やってること」 「両立しているのだから問題ないだろう」 「中にはそう思わない人もいるっていうか」 「ばかばかしい」 緑間はバッグを肩に掛け、立ち上がった。 「見かけで判断したい奴にはさせておけばいい」 少しイラついたような表情の緑間を桃井は高く見上げる。 「ミドリンって・・・優しいよね」 「なっ・・唐突に何なのだよ・・っ」 「きーちゃんに言ったらきっと喜ぶよ」 「絶っっっ対に言わなくていいのだよ!!」
ガチャ。
と、申し合わせたかのように、部室の扉が開いた。 「はぁーーーっ、あっちぃーー!!」 甲高い声で叫びながら部室に入ってきた黄瀬の顔から、ポタポタと汗が床に落ちる。緑間は無言でその様を見つめた。 「アレ?緑間っち、まだいたんスか?」 「いちゃいけないのか」 「お話してたんだよねー?ミドリン」 「いいか桃井、絶対に言うなよ」 「え、何なに?内緒の話っスか?」 「いいからさっさと着替えて帰れ。あまり女子を遅くまで待たせるものではないのだよ」 ふいと黄瀬から顔を背け、桃井の顔をもう一度睨むように見てから、緑間は部室を後にした。足音が遠ざかり、その気配が消えるまで、黄瀬と桃井は沈黙を守る。暫くして黄瀬はそっと部室のドアを開け、隙間から外を窺った。 「何話してたんスか」 緑間が帰ったことを確認した黄瀬はドアを閉め、ロッカーからバッグを取り出してその中に制服やタオルを無造作に詰め込みながら、桃井に問い掛けた。 「んー、ミドリンに怒られるから内緒?」 「うっわ、何それ超気になる・・けど、とりあえずシャワー浴びてくるっスわ」 「うん」 「3分で行ってくるっス」 「3分は無理でしょー」 桃井の笑顔に見送られ、黄瀬はバッグを担いで再び部室を後にした。
二人がその行為に及ぶのは、桃井が鍵当番の日と決まっていた。 どうしてこんなことになったのだろう。ものすごく大変なことをしているのに、行為が終わればお互いに何事もなかったかのようにいつもどおりなので、罪の意識がまるでない。想い人への伝わらない想いが寂しくて、伝えられるはずのない想いが苦しくて、慰め合うように互いの体に触れ合った。過ちも、一度犯してしまえば罪の意識は次第に薄れゆく。 桃井は黄瀬を待つ間に、バッグの中からデオドラント効果のあるウェットティッシュを取り出した。2枚ほど引っ張り出し、それをスカートの奥の下着の中へと忍ばせて、これから黄瀬に触れられるであろう大切な部分を何度も拭う。黄瀬はシャワーを浴びるが、桃井はそうはいかない。黄瀬は気にしないよと笑うだろうが、これは桃井の羞恥心と、精一杯の気遣いだ。拭い去ったウェットティッシュは小さくたたまれ、部室のゴミ箱へと捨てられた。
「お待たせっス」 3分はさすがに無理だったが、7〜8分で黄瀬は部室へと戻って来た。 唇へのキスはしない。そういう約束をしたことはなかったが、最初にその機会を逃した為か、その後も唇への口付けを躊躇うようになった。桃井もそのことには気付いている。ファーストキスは好きな人と、なんていう夢を抱いているかどうかは定かでなかったが、それだけが、ふしだらな行為に没頭する自分たちが守れているものともいえた。 「や・・っ」 桃井が初めて声を上げた。黄瀬は構わず、さらに先端を指先でくりくりと、弄ぶ。 「あ・・っ、やだ・・きーちゃん・・っ」 返事はしない。代わりに黄瀬は大きな手で両の乳房を掴み、顔を近付けて、その先端を口に含んだ。 「や・・っ、あ、あぁ・・っ」 「桃っち、声」 「ん・・・っん」 誰もいないはずの部室での行為。極力声を潜めなければならないのが難点ではあったが、それもまた、互いを興奮させる作用でもあった。今の桃井の反応を見れば、下半身の大切な部分がどうなっていくのかは予想がつく。黄瀬は、桃井の制服のスカートの中へと手を忍ばせた。やわらかな太腿を撫で上げながら、まずは下着の上から桃井の秘部を指先でなぞれば、布越しのゆるりとした感触に、その中で何が起こっているかがわかる。 「下着・・濡らしちゃ気持ち悪いよね」 黄瀬はふと笑い、桃井のへその下あたりから、今度は下着の中に手を潜らせた。 「んっ・・や・・っダメ、きーちゃん・・っ」 「ここ、気持ちいいんだ?」 「ちが・・っ、違うよ・・ぅ」 「へぇ・・」 素っ気ない声を返した黄瀬はいったん手を離し、その手を下着に掛けて、ゆっくりと下ろし始めた。突如失われた快感に満たされなさは残ったが、あれ以上触られたら声を抑えることなどできなかったであろう。桃井は少し安堵して、足元まで下ろされた下着から、片足を引き抜いた。下着を下ろすのに体を屈めていた黄瀬は、桃井の前に膝を突き、徐にスカートを捲り上げる。 「やだっ、ちょっときーちゃん何してるの・・!?」 「ん?もっと気持ちよくしてあげようかと思って」 「・・えっ?」 黄瀬が捲ったスカートの中に顔を寄せる。桃井はようやく黄瀬がしようとしていることを理解して慄き、黄瀬の頭を両手で押さえ付けた。 「やめてよバカ・・っ、恥ずかしいよ・・っ」 「うわ・・バカって言われた」 「そんなことどーでもいいよっ、ダメ!絶対ダメ!」 「なんで?」 「だってそんなの恥ずかしいし、それに・・汚い・・し・・」 「桃っちは、汚くないよ?」 できるだけやさしい声で、囁いて。 「きゃぁ・・っ」 悲鳴にも似た叫びを上げて、桃井は腰を後ろに引こうとした。だが、ロッカーを背にしている体はそれ以上退くことはできない。黄瀬の舌が、突起を大きく舐め上げる。手で触れられるのとはまったく違う、生温かい湿った感触に、桃井の腰は黄瀬の舌の動きに合わせてびくんと動く。桃井のは汚くない、とは言ったものの、女の子の股を直に舐めることに抵抗がなかったわけではない。それでも今はただ、黄瀬は桃井を可愛いと思うし、そんな彼女が乱れる姿をもっと見たいという欲望の方が強かった。 「や・・っ・・んん・・あぁ・・っ」 拒むことのなくなった桃井の股の割れ目を黄瀬は舌で攻め続ける。ぴちゃぴちゃと音を立てて唾液で濡らし、顔を深く押し付けて小さな突起を吸い上げれば、桃井はもはや堪えることなく、「ひぃ・・っ」という声を上げた。その声が部室の外に漏れてしまうのではという不安が過ぎったが、桃井の反応に黄瀬もかなり興奮している。すでにいつ挿入してもいい状態であろう秘部へと指先を忍ばせると、そこには、ぬめりを帯びた蜜が溢れだしていた。こんな濡れ方は、初めてだ。黄瀬は、今まで一本しか入れたことのなかった指を2本一度に入れてみた。2本の指は驚くほど簡単に、するりと中に吸い込まれていった。滑らかな肉が纏わり付く膣の中で2本の指を蠢かし、股の割れ目の突起を容赦なくしゃぶる。桃井は不規則に「あ・・っ」という短い喘ぎを漏らしながら、時おりびくびくと恥骨を前後させた。黄瀬は空いている方の手を上に伸ばし、桃井の胸の先端に触れる。「いや・・っ」という声とともに、2本の指を入れた膣内の滑りがさらに増したのがわかる。 「きーちゃん・・どうしよう・・・っ」 その声は、どこか切羽詰まったような響きだ。答えることのできない黄瀬は、構わず舌と指で、桃井を攻め立てる。 「あっ・・や・・っ、どうしよう・・っ、ね、どうしよ・・っ」 桃井の膝ががくがくと震え始めた。 「あぁ・・んっ、あああぁぁ・・っ!!」 少し長い嬌声を上げたかと思うと、桃井は突然黄瀬の頭を両手で押さえ付けた。 「ダメ・・きーちゃん、もうダメ・・っ」 必死で顔を股から引き剥がそうとする桃井の様子に、黄瀬は動きを止めた。じっと動きを止めていると、2本の指を入れた膣内から蜜が溢れ出してくる。それは指を伝って、黄瀬の手のひらまで流れ出した。指に纏わり付いた肉は、びくんびくんと脈を打っている。黄瀬は股から顔を離し、ゆっくりと桃井を見上げた。 「桃っちもしかして・・イっちゃった・・?」 女の体に触れたのは桃井が初めてなので、確信はなかった。けれどその尋常ではない様子は、それしか考えられなかった。 「わかんない・・っ、わかんないっ・・っ」 桃井は首を左右に強く振った。黄瀬が指を引き抜くと、「いやぁ・・っ」と声を上げて、体を捩る。黄瀬の手は拭わなければならないほどに桃井の蜜で濡れていたが、拭うものが見つからず、とりあえずワイシャツの裾の裏側でそれを拭う。ようやく解放された桃井は、ロッカーを背にずるずると体を落として床へと座り込んだ。黄瀬は桃井の頬に自分の頬を寄せ、頭をやさしく抱いた。 「ごめんね、桃っち」 桃井の様はこれ以上何かできる状態ではないように思えたが、黄瀬もとうに限界が来ている。 「オレももう、我慢できない」 桃井はゆるゆると力なく首を振った。それが肯定なのか否定なのかはわからない。黄瀬は制服のズボンのポケットの中から小さな袋をを取り出した。ベルトを外し、ファスナーを下ろし、下着の中から硬く立ち上がったペニスを取り出すと、袋の封を切って、早急にコンドームをペニスに被せる。桃井は「ダメ・・無理・・」と、座り込んだままスカートの前を押さえ、抵抗の姿勢を見せた。けれど今さら我慢などできるはずがない。黄瀬はもう一度「ごめんね」とやさしく囁いたが、その声とは裏腹に桃井を床に押し倒し、強引に足を広げて、ペニスを挿入した。 「ひ・・っ、や、ああぁぁ・・っ」 溢れ出た蜜が潤滑液となり、それはかつてないほどに容易に吸い込まれた。黄瀬に散々いじられ達した敏感な部分に新たな刺激を与えられ、桃井は嬌声を上げる。 「あっ・・あっ・・あぁ・・っ」 「桃っちお願い、声・・っ」 「ん・・っうぅ・・・」 これまでは、ロッカーに手を付かせて後ろから挿入したり、黄瀬がベンチに座って正面から抱きかかえたりと、桃井が身も心も辛くならないようにと気遣ってきた。こんなにも強引にするのは初めてだが、寧ろこんなにも悶える桃井を見るのも初めてで、声を抑えてと言いながら、黄瀬自身の下半身は抑制が利かなくなっていた。夢中で腰を動かし、何度も桃井の奥を突く。 「はぁ・・・っ」 やがて黄瀬も限界を迎え、桃井の中で達した。
*
制服をきちんと着て身形を整えベンチに座る二人は、手を繋いでいる。
「アイスでも食べて帰るっスか?」 「あー、冷たいもの欲しいかもー」 「無理させちゃってごめんね、桃っち」 「そういうことは言わなくていいんだよ?」 「そうスか?」 「そうだよ」 「わかったっス」 繋いでいた手を引いて桃井を抱き寄せ、黄瀬は桃井の頬にちゅっ、と小さなキスをひとつ落とす。じゃあ帰ろっか、と手を繋いだまま立ち上がり、ドアを開けるときにようやく二人は手を離した。鍵当番の桃井がドアを閉めて、鍵をかける。体育館に隣接した部室から渡り廊下を渡って校舎に入ると、廊下の電気はすでに消えていた。ところどころに非常口の緑の明かりがぼんやりと見えるだけであったが、長い廊下のずっと先には、明るい光が見える。まだ電気の点いている昇降口に向かって、二人は歩き出した。 暗い廊下を歩く途中、黄瀬の携帯メールの着信音が鳴った。ポケットから携帯を取り出してメールを確認した黄瀬は、思わず立ち止まる。「どうしたの?」と桃井も立ち止まり、暗がりの中、黄瀬を見上げた。 「ごめん桃っち、ちょっと、一緒に帰れないや」 「え、うん・・いいけど、どうしたの?仕事?」 「打ち合わせの電話するの忘れてた」 「えっ?大丈夫なの?」 「平気っスよ。でもあんま聞かれたくないんで・・部室の鍵借りていいっスか?明練の鍵開け、オレがするから」 「あ、うん・・」 桃井は一度カバンにしまった部室の鍵を取り出して、黄瀬に渡した。 「ホントにごめんね。今度アイスおごるっス」 「そんなのいいよ。じゃあ明日ね」 「じゃ」 軽く手を上げて、黄瀬は桃井を見送った。桃井の手前平静を装ったが、心臓はばくばくと大きく脈を打っている。黄瀬は再び携帯を開き、『了解っス』とひと言だけの返信メールを送った。
『黒子です。 部室に大事な忘れ物をしてしまいました。 部室の前で待っていますので、 桃井さんから鍵をもらってきてくれませんか? 桃井さんには先に帰ってもらってください。 朝錬の鍵明けは僕がします。 よろしくお願いします。』
桃井が昇降口の明かりの中に入って行くまで黄瀬はその姿を見送った。桃井の姿がなくなったのを確認して、黄瀬は今来た廊下を足早に戻る。
嫌な予感しかしなかった。 再び渡り廊下を渡り体育館の向こうを見ると、部室のドアの前にあまり大きくない人影があった。 |