| 栗の花の咲く頃 4
ベルトを外そうと手を掛けてきた黒子の手を、黄瀬が掴んで制した。「どうしました」と見上げる黒子の顔をちらと見てから、黄瀬は天井を見上げた。 「電気点けっぱじゃ、マズくないっスか?」 これから起こりうる行為を蛍光灯の明かりの下で見られることにも抵抗はあったし、何よりこんな時間まで煌々と電気が点いていたら、誰かが来てしまうのではないだろうか。 「ほら、先生とか用務員のおじさんとかが確認に来ちゃうかもしれないし・・」 「電気消して隠れたつもりでヤってるから余計に怪しいしバレるんですよ」 「・・・へ?」 「堂々としていればいいんです。鍵は閉まってるんですから、誰か来たら中断して、バスケの話をしていた、とでも言えばいいでしょう?」 「や、でも、黒子っちみたくこっそり来て、聞き耳とか立てられたら・・」 まったくもって人聞きの悪い。黄瀬の言葉に黒子の眉は僅かに歪む。 「黄瀬くんが桃井さんのようなイイ声を出さなければいいんです」 「わっ、ちょっ・・マジっスか」 黒子は構わずに黄瀬のベルトを外した。続けてズボンのボタンを外してファスナーを下ろして広げると、黒いラインと鮮やかな青が黒子の目に入った。 「今日はボクサーパンツですか」 「え?えっ?」 黒いウエストのゴム部分にはグレーのブランドロゴが入っており、それ以外は無地のブルー。そのブルーがいくらか膨らんでいるのを確認して、黒子はふとほくそ笑む。 「今日は、って・・いつもオレの下着チェックしてるとか?!」 「同性を好きになるとこういう得もあるんだな、と思って見ていただけです」 「・・正直・・ドン引きっスよ・・・?」 「それでも、こんなになってるくせに」 「・・っ・・・」 黒子は黄瀬の股間の膨らみをやさしく握った。まだ硬いというほどではなかったが、何らかの反応を示していることは明らかだ。形に沿って添えた手をさらに上下させると、「うっ」とも「くっ」とも聞き取れる声を黄瀬が僅かに漏らす。やがて膨らみは、徐々に形づいていった。 「桃井さんとしたときに出したんじゃないんですか?」 「そうっスけど・・・オレだってこんなん、わかんねーっスよ・・」 「じゃあ、わかった方がいいですよね」 「・・・・・・」 黒子は黄瀬のボクサーパンツのウエスト部分を引っ張って広げ、もう一方の手で直にペニスを掴み、下着の中から引っ張り出した。「うゎ・・」と声は出したものの抵抗しない黄瀬の顔が情けなく歪む。「よく男のちんこ平気で触れるっスね」と問う黄瀬に、「だって黄瀬くんのですよ?寧ろボクは嬉しいです・・って言ったらまたドン引きしますか?」と答え、黒子は黄瀬を見上げた。 半勃ちしたものを握られた状態では、そうだ、とは言えなかった。黄瀬が言葉に詰まっている間にも、黒子は黄瀬のペニスの根元を握り、ゆっくりとやさしく扱き上げる。握った手が亀頭に達して引っ掛かると、ゆるゆると根元まで戻して、また、ゆっくりと絞り上げる。少しの沈黙の後、「答えられないですよね」と黒子が言った頃には、半勃ちだったペニスの硬さは十分に増していた。 どうしてこんなことを許しているのだろう。冴えない頭の中で、黄瀬はぼんやりと考える。 「っうわ・・っ」 黄瀬の腰がビクンと動いた。 「ダメっス・・・」 「・・?」 「そこ・・ダメっスよ・・っ」 「どうしてですか?」 「・・お、おしっこ、出ちゃう・・・」 「ああ、なるほど・・・」 それはボクもちょっと困ります、と言って、黒子は先端から指を退けた。尿道への余分な刺激が過ぎたようだ。だが黄瀬は嫌がっている風にも見えない。このまま手でイかせてやるのもいいが、もっと黄瀬を感じたいとも思う。 そう、どうせ一度きりなのだから――。 「え・・っ?黒子っち?」 その声に応えて黄瀬を見上げたのは一瞬で、黒子は躊躇うことなく黄瀬のペニスを口に含んだ。 「ちょっ・・待っ・・あんた、何やってるんスか??!!」 黄瀬は慌てて黒子の頭を両手で掴んで引き剥がそうとした。けれど黒子は広げた黄瀬の膝を両腕で抱え、離さない構えだ。 「マジかよ・・・っ」 思わずいつもと違う口調が出てしまったが、黒子が口を動かし始めると、黄瀬は声を失った。桃井の中に入れるときは、滑りはあっても所詮は薄いゴム越しだ。この湿った生々しい感触はなんだろう。下半身の奥底からぞくぞくと何かが湧き上がってくるような。すぐにでも達してしまいそうなのに、もう少し、この快感を味わっていたいような。 「ヤっバい・・・」 あたたかい。というか、熱い。 「・・はぁ・・・っ」 切なげな吐息を漏らし、黄瀬は黒子を見下ろした。自分の股の間で、小さな口でペニスを咥える黒子の姿は何と卑猥なのだろう。ちら、と目線を上げた黒子と目が合った瞬間、それはビクっと反応してより硬さを増した。黒子の目が笑ったような気がして、黄瀬は羞恥心から逃げるように顔を背けた。 黒子の口の動きが早くなる。 「黒子っち・・も・・うダメっスよ・・」 そう言ってはみても、口が塞がっている黒子が答えることはない。 「ね・・もう、出ちゃうから・・っ」 ここまで言っても離す気がない黒子は、まさか口で受け止めるつもりなのだろうか。 「あ・・も・・ダメだって・・・っ!!」 黄瀬は黒子の頭を押さえ付け、腰を浮かせて黒子の口から強引にペニスを引き抜いた。と同時に、自らの手のひらでその先端を覆う。 「・・ん・・っ」 という短い声とともに、黄瀬は自分の手の中に射精した。
「まったく何考えてるんスか」 放った精液を黒子に見られたくないのか、黄瀬は右手を軽く握るようにして平衡を保っている。左手でバッグのファスナーを開け、中からポケットティッシュを取り出しさらにティッシュを数枚引っ張り出して、右手の中の白く濁った液体を拭った。 「口の中に出してもよかったのに・・」 「はぁ?」 たぶん本気でそう言う黒子の顔を呆れた風に見下ろしながら、黄瀬は先端に僅かに残っていた液を拭い去る。 「黒子っちだって自分のコレちょこっと舐めてみたことくらいあるっしょ?人間が口にするような味じゃないっスよ」 「黄瀬くんのなら口で受け止める自信がありました」 やっぱり本気なのだろう言葉に、黄瀬は「だからドン引きだって・・」と半ばうんざりとした表情で、肩を落とした。今までまったくそんな素振りも見せなかったくせに。「どんだけオレのこと好きなんスか」と冗談ぽく尋ねると、「これくらいです」と言いながら立ち上がり、黒子は徐に黄瀬の手を掴んだ。その拍子に丸めたティッシュがポトリと床に落ちる。掴まれた手は、黒子の股間へと誘われた。 そうだった。こうなることは予感していたはずなのに、思いもよらぬ快感に浮かされて、その先を考えることを忘れていた。触れた布越しの感触でもわかる。黒子のそれはすぐにでもどうにかしたいであろう状態だった。背も低く、顔立ちも幼い黒子でもこんな風になるのだということが少し不思議な気がしたが、これは紛れもない現実だ。 「挿れたいです、黄瀬くんに」 「・・・挿れる?」 「はい」 「えーっと、オレの無駄知識からすると男同士の場合に挿れる穴って1か所しかないんスけど・・・」 「じゃあ、そこに」 「じゃあ、って・・いやいやいや、無理っしょ!お尻の穴切れちゃうでしょ?オレ、この年で痔の薬とか買いたくねーし」 「もしそうなったらボクが薬局で買ってきます」 「あーもう、今そーゆーボケいらないから!」 「でも実際にそういう行為をしている人は世の中にいるわけで・・・」 「オレはホモじゃねーっスよ!!」 「・・・・・・・・」 何言ってんだ、という表情で黒子に見下ろされ、黄瀬はハッと我に返った。青峰のことが好きな自分はしっかりホモじゃないのか?いや違う、好きになったのがたまたま男だっただけだ。なんてことは、言い訳にもならない。 「ごめん・・やっぱ無理っスよ・・・」 「ひどいです。自分だけ気持ちよくなって」 「・・っ・・・」 さすがに何も言い返せない。けれど、尻に突っ込まれる勇気もない。 「黒子っち・・ゴム持ってる?」 「ゴム?」 「コンドームのことっスよ」 「まさか」 「オレもさっき桃っちに使っちゃったからもうないんスよね」 「それは絶対になきゃいけないんですか?」 「うん、絶対」 「・・・仕方ないですね」 じゃあ口でしてください、と言いながら、黒子はベルトを外し始めた。さらに、それでおあいこにしましょう、と当たり前のように言う。何とか逃れようと思ってみたところで、黄瀬が黒子に口でイカされたことは事実だ。桃井との行為も知られている以上、もはや逃れようがない。黒子はベルトに続いてズボンのファスナーを下ろし、もう我慢できないと言わんばかりに早急に下着の中から硬く勃起したペニスを取り出した。黒子の体格からして、茹でて膨張したウィンナー程度かなと思っていたがそれは少々失礼だったようで、長さはともかく串に刺したフランクくらいの太さはあった。この大きさならもしかしたらケツに入れられた方がマシだったかも・・と思わなくもなかったが、尻に異物が入る様を想像すると、やっぱり無理だと思う。 「高さが合いません」 黄瀬は両腕を引かれ、座っていたベンチから摺り落とされた。床に尻をつき、背はベンチに凭れ掛かる。 勃起したものを目の前に突き付けられて、黄瀬の胸に新たな不安が過ぎった。 「そーいや黒子っち・・部活の後シャワー浴びた?」 「いえ、そのまま着替えました」 無理だ、と、心のどこかが警告する。部活の後の汗臭さなんて、ましてや他人の汗臭さが決して気持ちのいいものではないことは存分に知っている。こめかみと額の皮膚の内側に、ぴり、という小さな刺激を感じたのと同時に、うっすらと汗が滲み出してきた。 「ずるいっスよ、オレはシャワー浴びてたんスよ?」 「・・・・」 黒子は黄瀬を見下ろしたまま眉を顰め、答えようともせずに、そのまま無理やり黄瀬の口にペニスを突っ込んだ。 「んぐ・・っ」 ビニール製のおもちゃのような臭いと、発散した汗の臭いと。ツンと鼻を突くような臭いは、アンモニア臭だろうか。味よりも先に、臭いが黄瀬の脳神経を刺激した。 「・・・っうぇ・・っ」 一瞬で堪えきれなくなって、黄瀬は黒子のペニスを吐き出した。胸のあたりから何かが込み上げてくる。「うっ・・」と何度も込み上げるものを抑えながら、慌ててバッグの中からスポーツタオルを取り出して、直接唾を吐き出した。さらにバッグの中からペットボトルのミネラルウォーターを取り出して口に含み、うがいをしてそれもタオルに吐き出した。 「・・ごめん・・黒子っち・・・」 「今のは結構傷付きました」 「そんなこと言ったって・・・」 込み上げてくる唾液をタオルに吐き出した黄瀬は、あることを思いついた。うがいを吐き出して濡れたタオルにさらにミネラルウォーターをかけて濡らす。 「せめて・・拭かせてよ」 タオルの濡れた部分で黒子のペニスを包み、それを丁寧に拭き出した。ひんやりとした感触が大事な部分を包み込む。少しでもきれいにしたいのだろう。黄瀬は陰茎と亀頭の境に寄った皮膚の皺から、陰毛まで丁寧に拭いている。その様を見下ろすのは悪い気分ではない。 「黒子っち・・」 「はい」 「ズボンとパンツも脱いじゃってよ」 「・・・え?」 「水かけて洗ったげる。濡れちゃったら困るっしょ」 「・・・・・・」 黒子が訝しげに黄瀬を見下ろすと、黄瀬は少し悪戯っぽく笑った。何が起こるのか予測ができなかったが、黄瀬とはとにかくいろんなことがしてみたいという思いがあった。黒子は「わかりました」と頷いた。 上履きが邪魔だったので、上履きを脱いでズボンを足から引き抜いた。黄瀬が黒子のトランクスのウエストに手をかけ足元まで摺り下ろすと、黒子はそれも足元から引き抜いた。上半身は水色のワイシャツに黒いネクタイ。下半身は白い靴下のみ。同級生の中でも幼い顔立ちの黒子にこの格好はあまりにも卑猥すぎる。黄瀬は思わず「くっ」と声を潜めて笑いを堪えた。「何が可笑しいんですか」と口を尖らせる黒子に「いや、なんでも」と答え、心の中でまた、笑いを堪えた。 四つ折りにしたスポーツタオルを手のひらに乗せ、黄瀬は黒子のペニスの下から支えるように手を添える。それから残っていたミネラルウォーターを黒子のペニスに少しずつかけた。黒子の腰がビクンと動く。「冷たかったっスか?」と尋ねると「ちょっとビックリしただけです」という声が返ってきた。水がかかった部分を下から包み込むように握って、拭き、また、水をかける。水がかかる度に、黒子の下半身はびくびくと動いた。 「なんかすごい、いけないことしてる、って感じっスね」 「ちょっと・・興奮します・・」 ボトルの水が空になったところで、黄瀬は再び濡れたタオルでペニスを拭い始めた。さっきよりもさらに丁寧に、隅から隅まで。まだ拭いていなかった陰嚢を持ち上げるようにして拭うと、「・・ぁ・・っ」という声が黒子の口から漏れた。 「黒子っち、可愛いっス」 「それは・・あまり嬉しくないです」 「へへ、形勢逆転、って感じ」 「・・・は?」 黒子は不満げに顔を顰めると、「まさか」と言って黄瀬の手とタオルを払い除けた。 黄瀬の頭を両手で押さえ付け、黒子は十分に勃ち上がった自身のものを黄瀬の口に強引に突っ込んだ。 「今度は平気でしょう?キミが咥えるために自分でキレイにしてくれたんですから」 「・・・んっ・・・」 「口を・・動かしてくれないんですか?」 「・・・・っ・・・」 「べつにそれでもいいですけど」 「・・・んっ・・・ぐ・・・ぅ・・っ」 反応のない黄瀬に焦れて、黒子は自ら腰を動かし始めた。黄瀬が抵抗することはなかった。苦しそうに顔を歪める黄瀬の口に、黒子は自身を何度も打ち付ける。きっかけは何であれ、今、念願が叶った。黒子っち黒子っちと纏わり付かれたときに常に素っ気ない態度を取っていたのは、この情けない顔を見るためだ。そして今のこの顔は、今まででいちばん情けない。じっと見下ろしていると、黄瀬が視線だけを上げてきた。目が合った瞬間、黄瀬は咄嗟に目を逸らし、それからギュッと瞳を閉じた。その様に黒子はふと笑う。ものすごく、興奮する。 「黄瀬くん、そろそろイキそうです」 黄瀬は僅かに首を動かして頷いた。 「口の中に出してもいいですか?」 「・・・っ・・・」 口の中に出し入れされながらも、黄瀬は僅かに首を左右に振った。わざわざ聞く必要なんてなかったな、と思いながら、黒子は体内の欲を解き放つかの如く、うっとりとした表情で黄瀬の口内に一方的に射精した。「・・んぐ・・っ」という黄瀬の咽た声が聞こえる。「吐き出してもいいですよ」と言いながら、黒子はそれを一滴残さず黄瀬の口内へと吐出した。 「・・・ん・・ぐ・・うっ・・おぇ・・・っ・・・」 一瞬だけ甘いような気がしたが、その後に襲ってきたのは言い様のない渋さと吐き気を催すほどの不快感だった。黒子のペニスが口から抜かれた途端、黄瀬はベンチの上にあった残り少ないポケットティッシュを引き出して、そこに黒子の精液を吐き出した。「・・おぇ・・っ」と何度も嗚咽を漏らし、いくらか青白い顔をして胸を押さえ、込み上げてくる不快感を堪えている。見るに耐え兼ねて、黒子は自分のバッグを開いて探り、お茶のペットボトルを黄瀬に差し出した。黄瀬は縋るようにボトルの蓋を開け、それをすべて飲み干した。黒子はその様子を眺めながら、下着とズボンを身に着ける。 「大丈夫ですか?」 「あんたが・・それを言うんスか」 「でもボクは・・すごく気持ちよかったです」 「そりゃあ・・よかったっスね・・・」 気持ちが繋がらないことはわかっている。 だから体だけでも、満足だった。 「栗の花の・・・匂いがします」 部室を見回して、黒子がふと呟いた。 え?と黄瀬が黒子を見上げる。 「栗の花の匂い、知ってるんスか?」 「はい。去年の今頃、青峰くんと一緒に帰ったときに栗畑を通って・・そのときに知りました」 「もしかして、あの住宅街の脇の・・?」 「たぶんそこです」 「・・・っ・・」 黄瀬はくっくっ、と笑いを堪えた。 大好きなあの人は、黒子にも同じことをしていたのだ。 「青峰っちにからかわれなかったっスか?」 「・・はい、まぁ、それなりに・・・」 あっははは!!と、黄瀬は声を上げて笑った。黒子が怪訝そうな表情で眺めてきたが、もう、どでも良かった。室内には確かに栗の花のような臭いが漂っている。
もしもここにいるのが黒子ではなく青峰だったなら。
そんなあり得もしないことを思いながら、黄瀬は右のポケットに手を忍ばせて、予備のコンドームをそっと握りしめた。 |