| タトエバ堕チテユクナラ 1
昼どきの学食は忙しない。 今日は土曜日なので授業は午前で終わったが、部活動の盛んなここ陽泉高校では、運動部・文化部ともにほとんどの部が午後には部活動を行う。自宅通学者は弁当を持参する者も多いが、それ以外は購買のパンや学食で昼食を取っている。 「あ、そうだ室ちん」 「・・ん?」 ご飯2倍盛りのA定食と大盛りのかき揚げうどんを交互に口へと運んでいた紫原は、ふと思い出したように氷室に声をかけた。普通盛りのB定食を食べていた氷室は箸を止め、紫原を見上げる。 「オレ、今日外泊するんだった」 「・・・えっ?!」 ふぅん、とか、へぇ、とかいった返事でも良さそうな場面だが、氷室はひどく驚いた顔をして、暫し紫原を見つめた。 「聞いてないぞ、そんなの」 「だってさっき決まったんだもん」 「外泊って、どこに?」 「んー?秋田駅らへんのホテル?」 「誰と?」 「気になる?」 紫原は両の口角を上げて笑っている。わかりきったことを聞かれてカチンときた氷室は、べつに、と素っ気なく答えて食事を再開した。あ〜そう?と惚けた声で言ったきり、紫原は結局答えを言わないままだ。聞くものかと必死で堪えて1分後、氷室は再び箸を止めた。 「・・・誰と」 疑問符も付かない不機嫌な声で、氷室は紫原を見ずに尋ねた。紫原はくっくっと肩を震わせながら、本当にわかりやすいセンパイだなと氷室を見下ろしていたが、答えろよ・・と言う口調が若干ガラが悪かったのと、握り箸をした拳に力が入っていることに気付き、慌ててゴメン、と詫びて手のひらを前に出しながら氷室にストップをかけた。 「兄ちゃんだし〜」 「兄ちゃん?」 「うん」 「お兄さんか」 「そう、いちばん上のね」 紫原が5人兄弟の末っ子だというのは本人から聞いたことがあったが、お兄さんのことをそう呼んでいることは、今、初めて知った。何だか彼らしいなと思うと、氷室の険しかった表情も緩む。 「秋田に来てるのか?」 「うん、仕事で急に来ることになったってメール来たからオレ明日部活ないよ、って返事したらじゃあ一緒に泊まろう、ってなって、部屋もシングルからツインにしてくれたって」 「部活終わってから行くのか?そういうことなら休んでもいいんだぞ。監督にはオレが言っておくから」 氷室は、すでに部活着に着替えている紫原を見上げた。 「だって兄ちゃんの仕事終わってからだもん。8時に待ち合わせして夕飯食ってホテル泊まんの」 「ずいぶん遅いな。だったら明日の朝から会った方がいいんじゃないか?」 「明日の昼の新幹線で東京帰るんだって。忙しい人だよね〜」 「・・・そうだな」 大抵のことを面倒臭がる紫原が素直に、というよりむしろ楽しみにしている様が窺える。きっとそのお兄さんのことが好きなのだろう。もちろん快く送り出してやろうと思っているが、それでも、ほんの少し残念な思いが氷室の胸を過ぎる。 「期待してた?」 「えっ?」 まさに今考えていたところに図星を差されて、氷室の肩は大きく跳ねた。紫原は向かいに座る氷室の顔を覗き込むように見て、くす、と笑う。覗き込まれた顔は、瞬く間に赤く染まった。氷室の反応に満足した紫原はその頭をぽんぽんと撫で、ごめんね、と言った。 「オレは、べつに・・・」 「日曜に練習試合も何もないの、久しぶりなのにね」 「いや、だから・・っ」 「オレはすごく残念〜」 「でも・・お兄さんも大事だろ」 「うん、そう、だからごめんね」 謝るようなことじゃないだろ、と、やさしく笑って言いたかったが、上手く笑えなかった。今度、部活が無い日は一体いつだろう。テスト前だろうか。 氷室も紫原も男だが、二人は恋人同士だ。もちろん周囲に公言はできないが、同じ寮で暮らしている二人の関係は肉体関係にまで及んでいる。そんな二人の間に難があるのは、男同志というだけではなかった。 紫原の身長は208センチ。何もかもが規格外。当然、セックスの際に相手を悦ばせるはずの肉棒も常人のそれではなかった。氷室も183センチと一般の高校生男子に比べれば身長はあるし、その体も長年バスケで鍛えられている。それでも、規格外のモノを尻に突っ込まれ好い様にされれば、翌日はベッドから起き上がることさえ困難になる。だからセックスをするのは翌日に部活も学校もない日、と二人で決めた。バスケの強豪校であるため、学校が休みの日曜日でさえ練習試合が組まれることが多く部活がない日など滅多にないのだが、それも氷室の体のダメージを思えば致し方ない。何より、自由奔放でわがままな紫原がその約束を守ってくれていることは、彼の氷室に対する労わりが感じられて嬉しかった。
「たまにはオレ以外にも甘えて来いよ、アツシ」 氷室は今度こそ、やさしく笑った。
「部活が終わったらソッコーで寮帰って風呂入っちゃってよ」
パス練の順番待ちのとき、紫原は氷室に小声でそう言った。 どうして?と尋ねたら、ここじゃ言えない、という答えが返ってきた。 部活が6時に終わっても、主将の氷室はすぐに帰れることの方が少ない。顧問の荒木にでも声をかけられれば逃れることは不可能だ。少し時間を取られて寮に帰るのが6時半だったとして、急いで風呂に入って6時45分。紫原が待ち合わせをする秋田駅は、車なら20分ほどで着くが、バスだと遠回りをするので40分近くかかってしまう。7時過ぎには寮を出なくてはならないのに、まさか・・ヤってから行くつもりだろうか。 「氷室!」 パス練のパートナーである同学年の劉が、ボールを胸の前で構えたままつんのめるように一歩前に出た。 「何ボーっとしてるアル!」 怒鳴りながら前に出てしまった分一歩下がると、劉はあらためて足を踏み出し、いつもより相当強いパスを送ってきた。 「悪い!」 そう叫んで駆け出した氷室を、紫原は小さく笑いながら目で追った。
部活が終わると予想通り顧問の荒木から声がかかった。翌週の練習試合の相手校について少し話した後、今日は練習に集中していなかったと、お小言まで頂いてしまった。どんな言い訳もできるはずがない。氷室はただ、すみませんでした、と頭を下げた。 急いで寮に帰り、まだほとんど人のいない風呂で入浴を済ませると、ぴったり6時45分だった。濡れた髪をタオルで乱暴に拭きながら部屋のドアを開けると、そこにはすでに紫原が待機していた。おかえり〜と言いながら、ひらひらと手を振ってくる。 「出掛ける準備しなくていいのか?」 何かを期待して急いで風呂に入っておきながら、氷室は紫原に尋ねた。 「何が可笑しい?」 「こーゆーときの室ちんてホント素直で可愛いな〜と思って」 「どういうときだよ」 「んー、聞きたい?」 「いや・・」 いい、と答えた氷室を紫原は正面から抱きしめて、氷室の耳元に唇を寄せた。耳朶を舌先で軽く舐めてから、「したくてしょーがないとき?」とその耳元に囁けば、氷室の体がビクン、と揺れる。 行為に及ぶ前の氷室は、正直あまり機嫌がよくない。言葉もいつもより冷たいし、態度もどこか投げやりだ。けれどそれらがすべて、照れであることを紫原は知っている。男同士のセックスで受け身に回るのだ。たとえ心の中で、或いは体がそれを求めていたとしても、おいそれと自分から喜んだり求めたりはできないだろう。それでも行為に及べは氷室は体を開き、喘ぎ、紫原の巨大なペニスを尻に埋め、どうしようもなく気持ちよさそうな顔で射精する。その事実が、”素”の状態の氷室にとってはきっと大きな屈辱なのだ。それがわかってからは、氷室の機嫌の悪さは期待の表れなのだと理解して、紫原はむしろそんな態度を歓迎した。 「でもアツシ・・そんな時間ないだろ?」 「そーなんだよね〜、室ちんイかせてオレも挿れてる時間ないんだ、ごめんね〜〜」 「じゃ、じゃあ、風呂って・・・」 「うん、オレもこのまま出掛けちゃうのはなんか勿体なくて・・」 「・・・え?」 紫原は身を屈めて氷室に軽く口付けると、また、氷室を抱きしめた。背中に回した手をTシャツの裾から潜り込ませ、さらに部屋着代わりのハーフパンツと下着の中まで忍ばせる。 「お、おい・・アツシ、何を・・」 「室ちん・・中、洗った?」 「え・・あ、いや・・少し・・・だけ」 可愛いなぁ、もう、と、紫原は左腕1本で氷室を抱きしめながら、下着の中に忍ばせた右手で尻の割れ目に中指を侵入させた。氷室の体に力が入り、紫原の指がキュ、と氷室の尻に挟まれる。 「力抜いてよ室ちん〜」 「だって・・何するんだ?」 「えっとー、余韻?残してこうと思って」 「・・・よ、いん?」 「うん」 だからちょっと待ってね、と言って、紫原はいったん右手を外に出した。それから紫原自身のハーフパンツのポケットから何かを取り出し、背中に回した左手も使って何かをしている。用が済んだそれを手を伸ばして机の上に置く音がした。氷室が首だけを振り返らせて見ると、それは、すでに見慣れたローションのボトルだった。 「おい、アツシ・・しないんだろ?何使って・・ん・・っあ・・っ」 再び下着の中に入って来た右手の中指は、素早く氷室の尻の穴へと挿入された。まだ指先しか入っていないが、氷室の口から思わず声が洩れる。紫原の太くて長い指が、ゆっくりと奥へ入っていく。解すようにぐりぐりと指が動くたび、氷室は紫原にしがみ付き、小さな声を洩らす。余韻を残すというのはこういうことか。今夜はもう、この余韻に浸って自分で出すしかないだろう。 「室ちん・・すげーちんこ勃ってる」 「う・・るさい・・っ」 紫原の太腿のあたりに勃起した氷室のペニスが当たっている。でも、このままイかせてしまっては面白くない。紫原は氷室の尻から指を引き抜いた。 「・・っ・・え・・・?」 氷室の顔が切なげに歪む。その顔は、もう終わりなのか?と乞うような表情だ。堪んないな・・と心の中で呟いて、紫原はまたポケットを探って何かを取り出し、再度氷室の下着に手を入れた。氷室の尻に指以外の何かが宛がわれ、人肌より少し冷たいそれは、ゆっくりと穴の中に挿入されていく。 「ア、アツシ?!何入れたんだ・・!?」 紫原のペニスに比べればはるかに小さい物ではあったが、動きもしないそれは、ただの異物でしかなかった。えーっとねぇ、と言いながら、紫原はポケットからごく小さなリモコンのような物を取り出した。ボタンを見ながら何かを確認しているようだ。肌より冷たい異物にリモコン。まさかとは思うが、それは―――。 「ち、ちょっと待てアツシ!!・・こっ・・心の準備が・・っ・・!!!!」 紫原がリモコンのボタンを押すと、すぐに氷室は反応した。ああぁ・・っ、と声を上げ、膝を折って座り込みそうになる体を紫原が左腕で抱える。尻の中で、何かが振動している。ペニスとも、指とも違う素早く連続する動きは、氷室の下半身を大いに刺激した。 「アツシ・・これっ・・バイブ、か・・?」 「んー?違うよ、何だっけ?ルーター・・じゃなくて〜、ローター・・だっけ?」 ルーターでもローターでもどっちでもいい。そんなことより。 「ど、どうやってこんな・・もの手に・・入れ、た・・っ」 会話の合間にも、何度も感じた声を洩らし、切れ切れの声で氷室が尋ねる。 「んーとねぇ、これこれこーゆーのが欲しいんだよね〜、って赤ちんに言ったら送ってくれた」 「洛山、の・・赤司くん・・か?」 紫原の中学時代のバスケ部の主将であり、京都・洛山高校の現主将。バスケのプレイからも紫原の話からもただ者ではないとは思っていたが、いち男子高校生がこんなものをあっさりと送ってくるとは、一体彼は本当に何者なのだろうか。 「ア・・は、あぁ・・っ、アツシ・・お願いだ、もう・・止めてくれっ・・」 「うん、オレもそろそろ行かなきゃ」 紫原は素直にスイッチをオフにした。息を切らせて崩れ落ちる氷室を咄嗟に片腕で支える。 「室ちん、今晩このままコレ入れててよ」 「なに・・言って・・・」 「オレのより全然小さいけど、オレが挿れてあげたんだから、コレでオレのこと思い出して抜いてよ」 はい、とリモコンを手渡され、氷室は反射的にそれを受け取ってしまった。自分で立てる?と気遣う紫原は、こういうとき、驚くほどやさしい。もう少し一緒にいたい、と思ってしまう。氷室は自分の足で立ち、そのままよろよろとベッドに腰掛けた。 「あ・・ん・・っ」 挿入されたままのローターが、座ったことでアナルに刺激を与える。 「もうっ、ほんとにエロいなぁ、室ちんは」 このまますぐにでも突っ込みたいほどに紫原も昂ってはいたが、残念ながら時間切れだ。こと性欲に関しては、紫原の方が制御の効く体質であった。氷室の髪をやさしく何度か撫でてから、紫原は腰を屈めて氷室に少し深く、口付ける。 大変そうだから見送りはいいよ、と言ってもう一度名残惜しげに口付けて、紫原は呆気なく部屋を出て行った。
「こんなもの・・・」 一体どうしろっていうんだよ―――。
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