タトエバ堕チテユクナラ 2
1/2 挿入された部分がどんな形なのかはわからなかったが、底部は尻の形に沿うようカーブを帯びていた。中に入ってしまって取り出せない、なんてことがないように底がストッパーになっているようだ。 紫原はこのまま入れてて、と言ったがとんでもない話だ。こんなものを入れたままでは食堂に夕食も食べに行けない。さっさと取り出してしまおう、と思う氷室の手には、リモコンがあった。開いた手の上に乗るそれをじっと見下ろす。「強」「弱」「連続」「回転」。さっき紫原が押したのは、どのボタンだったのだろう。振動の感覚が、よみがえる。 ちょっとだけ。1回だけ、押してみようか? 躊躇う指先が、僅かに震える。思い切れず、じっと見つめたまま、少しの時間が過ぎる。氷室の意思に関係なく、空腹の腹が鳴った。やっぱり飯を食べようと心は決まり、ローターを抜こうとTシャツの裾から手を入れたとき、部屋のドアがノックされた。 「・・・・・」 この状況。できれば居留守を使いたいが、居ない振りをして勝手にドアを開けられたら、相手が誰にせよ気まずいことこの上ない。氷室いるかー?という声が聞こえる。この声は、誰だったろう?ドア越しではよく聞き取れない。 「いるけどちょっと・・・」 30秒待って、と言いかけたがすでに遅く、ドアは開かれた。 「なんだ、いるんじゃん」 立っていたのは、隣りの部屋の小林という寮生だった。同学年だがクラスは違う。確か柔道のスポーツ特待生だ。柔道とはいってもどう見ても重量級ではない。氷室より背は低く、けれど体はすごく締まっているので、そう重くない階級なのだと思う。もっとも、”柔道”より”JUDO”の方が馴染みがある帰国子女の氷室にとって、日本発祥のその競技は興味の対象外であった。 「どうした?」 「え?ああ、ちょっと相談があって」 「・・相談?」 めずらしいな、と思ったが声には出さず、少し驚いた風に氷室はドア付近に立ったままの小林を見た。部屋は隣りだが、特に親しいわけではない。かといって、不仲なわけではまったくない。教科書学校に置いてきちゃったから貸してくれ、とか、マンガ回って来たけど読むか?とか、その程度の行き来はあった。ただ、隣室だから、という以上の干渉をお互いがすることはなかった。 「お邪魔してもいいか?」 そう尋ねる小林はすでに部屋に足を踏み入れていて、氷室の返事を聞く前に、後ろ手でドアを閉めた。 「これから夕飯食べに行こうと思ってたんだけど、食堂じゃダメなのかい?」 食堂で良ければ、後から行くと言ってこの尻に挿入されたままのローターを抜いてから行ける。そう踏んで逆に尋ねたのだが。 「ちょっと、深刻な話だから」 と答え、小林はずんずんと部屋に足を踏み入れてくる。ついにはベッドの脇までやって来て、氷室よりも先にベッドに腰を下ろした。氷室は手の中のリモコンをどうにかしたいと思ったが、今日に限ってハーフパンツにポケットが付いていなかった。これが何であるかなど見ただけではわからないだろうが、机の上に置くのは何だか気が引ける。いっそベッドに座るときに太腿の下にでも隠してしまおうか。いや、万が一スイッチが入ってしまったら、悲惨なことになる。そんなことを考えていると、小林が「まぁ座れよ」と言った。仕方なくそれを手の中に握ったまま、「ここ、オレの部屋なんだけど?」と冗談めかして苦笑すると、「ワリィワリィ」と言って小林も笑った。 「で?相談って?」 心持ちゆっくりと腰を下ろしながら、氷室は小林に尋ねた。少し長めのスポーツ刈りに、くっきりとした目鼻立ち。明るく元気な性格、だと思う。そんな彼があまり接点のない氷室に相談事というのは、少し不可解でもあった。小林はベッドに腰掛けた膝に両肘を着き、単刀直入に聞くけどさ、と言って横に座る氷室を見上げてきた。なに?と答え、氷室は逆に彼を見下ろす。 「お前と紫原って、デキてんだろ?」 「!!!!!」 自然呼吸で吸ったはずの息がそこで止まり、それきり吐けなくなった。本当に息が止まりそうになって、焦りが伝わらないように、氷室は少しずつ息を吐き出す。お互いの視線は合ったままだ。穏やかだった二人の目は、いつの間にか睨むような目付きに変わっている。なぜ小林なのか、と考えたのは一瞬で、小林だからだ、という答えはすぐに出た。 「気付かれてないと思ってたか?」 「何の・・話だ・・・」 小林は、前のめりの体を小さく揺らしながらくつくつと笑った。笑いを堪えているようだった。配慮が足りなかったことを氷室は今、心の底から後悔している。しらばっくれて否定するか。それとも素直に認めてしまうべきか。氷室の脳内がぐるぐると混乱し始めたとき、小林は前のめりの体を起こして大袈裟に氷室に寄り掛かり、肩を組んできた。 「男でもあんな声出んのな」 「・・・・っ」 一瞬にして耳まで赤く染まった氷室の顔を覗き込み、小林はにやりと笑う。極力・・どころではなく、本当にもう必死で声は抑えていたつもりだったが、思っていた以上に寮の壁は厚くはなかったようだ。隣室の声というのは、声がする、会話している、というのはわかってもその内容まではよほど大声でもない限りわからない。だが喘ぎ声ともなれば話は別だ。声のトーンでそれとわかってしまったのだろう。もう、どうしていいのかわからない。 「オレもオフの前日はさぁ、マンガ読んだりネットしたりで結構遅くまで起きてんだわ。最初は夢でも見てうなされてんのかなーくらいに思ってたんだけど、誰か一緒にいるみたいだし。んで、こないだ趣味ワリィとは思ったけど壁に引っ付いて聞いちゃったんだよな。”アツシ”って・・紫原のことだろ?」 「?!」 「やっぱ思わず名前とか呼んじゃうもんなの?」 「・・・・・」 「何お前、顔真っ赤じゃん」 頬を撫でられたかと思うと、その頬に口付けられた。 えっ?と驚いて小林を見れば口角は上がっていたが、目は笑っていなかった。嫌な予感しかせずに肩に回された腕を振り解こうかと思ったが、予想以上に彼の力は強い。小林は肩に回していない方の腕を氷室の前に回し、横から抱きつくような姿勢のまま、氷室をベッドに引き倒した。かと思うと左腕一本で氷室の膝を抱えてベッドの上に乗せ、即座に両腕を掴んで押さえ付ける。気が付けば氷室は両腕をベッドに張り付けられ、馬乗りに跨られるような格好になっていた。 「そーいや今さっき玄関で紫原が2年と話してたけど、アイツ今日、外泊だって?」 「・・・だったら、何だ」 「ああ、ちなみに吉田も外泊だってよ」 「だから・・何なんだ」 「うーん、都合がいいかなーって」 「・・・・・」
吉田とは、小林の反対隣りの部屋の同級生だ。わざわざそれを言う小林の真意はわからないが、良い予感はまったくしない。そして予感は当たった。 暫く氷室を見下ろした後、小林は氷室の胸に顔を埋めた。顎を擦り付けて何かを探り、それが見つかると、長袖Tシャツの上からそっと、歯を立てた。 「・・うっ・・」 布越しに乳首を噛まれ、氷室の体がビクンと大きく跳ねる。前歯と唇で何度も軽い刺激を与えられ、反応しそうになる体を必死で制御する。氷室の長袖Tシャツの胸のあたりに、唾液が丸い染みを作る。小林は、対の乳首にも同様の愛撫を施した。 「・・くっ・・ぅ・・」 「なぁ、男でもココって感じんの?・・・なぁ?」 「お前も・・こういう趣味が、あるのか」 「はぁ?ねーよ。なぁ氷室・・オレさ、彼女いるんだわ」 「だったら、その彼女と・・っ」 「あぁ・・してーよ。ヤりてーよ。もー会うたびそればっか考えてるよ。けどオレもアイツも寮だし、毎日部活だし、もし休みが合ったとしたってこの辺じゃラブホなんて車なきゃ行けねーようなとこばっかだし、だからって二人で寮のチャリ借りてラブホとか、マヌケ過ぎだし?つかそんなことアイツに言ったらどんだけヤりてーんだってぶん殴られるわマジで。そんなやつらがココにはいっぱいいんだよ。それが何?なんで変態ホモのお前らだけズコバコできちゃってんの?おかしくね?こーゆーの理不尽って言わね?言うよなぁ?・・・なぁっ」 「そんなの・・言いがかりだ・・・」 気持ちはわからくもなかったが、それを言われても氷室にはどうすることもできない。完全に逆恨みだ。氷室は何とか小林の腕から逃れられないかと体を捩ってみたが、彼はビクとも動かない。柔道特待生は伊達ではなかった。それでも何とかならないだろうかと、氷室は無駄な抵抗を試みる。そんな氷室の拳の握り方が少しおかしいことに、小林は気付いた。左手は拳に力が入っているが、右手は指先を伸ばしたまま握られている。掴んだ手首からじりじりと手をずらし、その手の中にあるものを確かめようとしている小林に気付いた氷室は、さらに握る手に力を込めた。けれどそれは、一歩間違えればスイッチが入ってしまう危険性もある。 「何・・するんだ」 「いや、何隠してんのかと思って」 「何も・・・」 「だったらいいじゃん。手、開けよ」 それでも頑なに手を開かない氷室に焦れて、小林は掴んだ手を手首まで戻し、氷室の手首を捻った。 「バスケできなくなんじゃね?」 「!!」 お互いにスポーツマンだ。本気でそんなことは思っていないのかもしれないが、今の彼なら誤って、ということがあってもおかしくない。嫌だ―――。と、氷室がそう思ったとき、小林はその隙を逃さず氷室の手の中の物を取り上げた。 「何だこれ?」 氷室の自由になった右腕を今度は足で器用に抑えながら、小林は手にしたリモコンを見つめ、呟いた。 それは寮の誰かが持っていた、椅子の背もたれ用のマッサージクッションのリモコンに似ているな、と思いながら適当にボタンを押すと、なぜだか氷室の肩が揺れ、顔が歪んだ。小林は訝しげに、一度OFFを押してから、また別のボタンを押してみる。すると氷室は小さく体を捩り、顔を大きく横に背けた。 「え・・何これ・・・マジ?」 小さな子供が興味本位で遊ぶかのように、小林はスイッチのオン・オフを繰り返して氷室の反応を確かめた。返せ、という氷室の声が弱々しく洩れる。 「ハ・・アハハ・・ッ!!え?何マジで?マジでお前らこんなもん使ってんの?おっとな〜、っつか、変態?」 「やめろ・・っ」 「ホントにそう思ってんのか?これ動いたらお前、気持ちいーんじゃねーの?」 「お願いだ・・やめてくれ、小林・・・」 そう言って見上げてきた氷室の表情は、懇願するようでもあった。その顔を暫く見下ろしていた小林は、スイッチが入ったままのリモコンを床に放るとその手で氷室の長い前髪を掻き分けた。恥辱に耐える氷室が、唇を噛み締めて見上げてくる。 「こんな顔してんだな」 「・・え?」 「いつも・・前髪で片目しか見えないじゃん」 「・・・・・」 「ホント、キレーな顔だ」 小林が、ゆっくりと顔を近付けてきた。唇に口付けられた瞬間は何が起こったのか理解できなかったが、ハッとした氷室は慌てて顔を背けた。それを追うように、小林はまた氷室に口付ける。氷室が固く口を結んでそれを拒むと、再び両腕を押さえ付け、小林は氷室の首筋に舌を這わせ始めた。 「何して・・っ」 「もーいいだろ?ここまできたら」 「こういう趣味は、ないんじゃなかった・・のか・・っ」 「ねーよ」 「じゃあ・・っ」 「ってか、なかったよ」 「・・どういう、ことだ?」 口を開いた氷室の唇を小林が素早く塞ぐ。交わるように深く口付けられて、氷室は混乱した。同性に興味のないはずの彼はなぜこんなことをするのだろう。その間にも口内に侵入してきた舌の感触に慄いて、氷室は咄嗟にその舌を噛んだ。「・・ってぇ!!」と声にならない声を上げた小林は弾かれるように氷室から顔を離し、恨めしげな目で氷室を見下ろしてきた。 「お前の・・アレんときの声聞いちゃってからオレ、少しおかしいんだわ。氷室がどんな顔してあーゆー声出すのか、見たくて見たくてしょーがねーんだ。オレはホモじゃねぇ、ってその度に頭切り替えんだけど何かダメで、こないだ風呂で一緒になったときもお前の体ばっか見ちまって、だからその後、ケツに突っ込まれて声出してるお前想像してオレ・・・抜いた」 「!?」 「気持ちワリィか?・・悪くねーよな?この気持ち、わかるはずだもんな?」 「それは・・・」 「だから、責任取ってくれよ」 「・・責任?」 氷室が問い返した瞬間、小林は抑えていた手を離し、その手で氷室のハーフパンツと下着を一気に引き下ろした。 「っ・・おい!!」 ひざ上まで服を引き下ろすと、小林はすぐさま氷室の両腕を押さえ付ける。じっと見下ろす小林の目に、氷室のペニスが晒された。 「ハ・・アッハハハ!何だよお前、勃ってんじゃん!正真正銘のホモだな!!」 「う・・るさい・・っ」 「これって、オレでもいいってことだろ?」 「違うっ!!!」 そうじゃない。尻の中で回転するローターが、もうずっと氷室の下半身を刺激している。原因はそれだが、勃起している事実は変わらない。小林は素早く自身のジャージと下着を下ろすと、氷室に体を重ねてきた。硬く勃ち上がった小林のペニスが氷室のそれにぶつかってくる。 強い力で押さえられ続けた氷室の手首に限界が来ていた。掴まれた手首より上は赤く鬱血して痺れ、血管という血管が青く浮かび上がっている。このままでは腕を痛めてしまう。最後の抵抗をしてみるか?興奮した様子の小林を何も感じていない瞳で見上げ、氷室は考える。喧嘩なら自信がある。喧嘩と柔道は違う。本気でかかれば勝てるかもしれない。ただ、そのときには互いに大きな代償を払うことになるだろう。どんな怪我を負うかもわからない。暫くの間、バスケや柔道ができなくなるかもしれない。そしてそんな喧嘩が表沙汰になれば、バスケ部にも柔道部にも迷惑がかかる。皆と・・いや、皆が試合に出られなくなる。そんなのは、絶対にダメだ――。 氷室は、全身の力を抜いた。 「・・どうした?諦めたのか?」 抵抗を止めた氷室を訝しげに見下ろして、小林は尋ねた。 「もう、疲れた・・・」 氷室はただ力なく、瞳を閉じる。こちらを油断させて逃げる気かもしれない。小林は慎重に氷室の様子を窺いながら掴んだ手首をゆっくりと離したが、氷室はぐったりと横たわったままだ。それに乗じてTシャツの裾を捲り上げてみれば、二つの小さな突起はさっきの布越しの愛撫のせいか或いは別の刺激からか、ピンと硬く立っていた。小林は顔を近付けて、今度は直に唇で触れてみる。 「・・んっ・・・」 氷室の体がビクンと揺れた。小林は硬くなった氷室の両の乳首を舌先で何度も突き、ちろちろと舐め、しゃぶり、歯を立てる。氷室はその度に苦痛に堪えるような声を洩らし、けれどペニスはより硬さを増した。それを小林が直に手で握る。氷室は自由になった腕を上げ、両腕で顔を覆った。顔隠すなよ、と小林が言い、オレの勝手だ、と氷室は答える。抵抗を止めればこんなにも簡単に感じている自分が情けなかった。相手は紫原じゃない。ただの、隣室の同級生だというのに。乳首への愛撫を続けながら、小林が氷室のペニスを扱き始める。溢れ出す先走りを手のひらで拭い扱けば、ゆるゆるとした感触にぞくりと体中から何かが湧き上がってくる。 「は・・ぁ・・っ」 堪えていた氷室の口から切ない声が洩れたのを境に、その声に興奮した小林の手の動きが早くなる。 「小林・・もう、ヤバい・・・」 「いいよ、出せよ」 小林の息遣いが粗い。こんな男が相手でもオレはオーガズムを得られるんだな、などとぼんやりと考えながら氷室は達し、自身の腹の上に射精した。 |