
Illustration by ひむら様
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高校一年の時、観客席でしか見ることのできなかったウインターカップの試合で目にしたのは、流麗な動きと、誰もが騙されてしまうであろうフェイクと。基本に忠実であるが故に魅せることができるプレイは限りなくこっち側の人間に近いと思われたが、こっち側の人間の誰もがその実力は天性ではなく、計り知れない努力によって培われたものだと気付いたはずだ。それは、この男と二人でWエースと称され、共にプレイしていたあいつも例外ではないだろう。 ひとつ年上のこの男のプレイは翌年のインターハイやウインターカップでも目にしたし、大学のリーグ戦では試合をしたこともあった。今思えば、大学で対戦した時の男のプレイには高校時ほどの情熱は窺えず、それがかつて流麗な舞を見せていたはずの彼の印象を薄くしてしまっていたのかもしれない。あの時は不思議に思ったが、今は一般企業に就職してバスケは趣味でやっていると聞けば、消えた情熱にも頷ける。 この男―――氷室辰也は、一体いつ、オレたちの側に来ることを諦めたのだろうか。
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「なぁ、ホントにヤんのか?」 どうでも良さげなその声に、期待感というものはまったく窺えない。ラブホテルの一室。ソファに腰掛け、大袈裟に足を組んで広げた両腕を背もたれに掛けながら、青峰大輝は欠伸をひとつ洩らした。 「オレが相手じゃ勃たないっていうならべつに無理にする必要はないよ。ただ……」 「……ただ?」 「もし黄瀬くんとタイガがヤっちゃってたら、ちょっと悔しくないかい?」 さらりと生々しい発言をして、氷室はその綺麗な顔でニッコリと笑った。青峰の恋人である黄瀬涼太も現役モデルだけあって非常に綺麗な顔立ちをしているが、綺麗の種類が違うなと、風呂上がりの氷室の顔を見上げる。黄瀬はいかにも今風の風貌で、流行りの服も容易に着こなすが、例えばバスローブ姿になればそれはどこから見ても逞しい男で、じゃあなぜ欲情するのかといえば答えは簡単で、それが黄瀬だからだ。 ところがこの氷室という男は少し違った。顔の造作のみでいえば黄瀬の方が整っているかもしれない。黄瀬のような華やかさや眩しさもない。それなのに、何故だろう。この男は、ひどく美しいと思う。 「火神のヤツにあんた以外を抱く甲斐性あんのかよ」 「黄瀬くんの魅力に負けちゃったりして」 「あ? 黄瀬は案外色気ねーぞ」 「ふぅん、そうなんだ」 タオルでガシガシと濡れた髪を拭く乱暴なその動作はどこからみても男だというのに、乱れた髪を手櫛で梳かす仕草に思わず見惚れ、その髪に触れたいとさえ思わせるこういうのは何て言うんだっけか、と数秒考えた結果、『妖艶』という二文字が青峰の脳裏に浮かび上がった。 いい加減に髪を整えた氷室は冷蔵庫から取り出したスミノフの瓶の蓋を開け、細い飲み口に直に口を付けてラッパ飲みをしている。「それ、美味いのか?」と尋ねると氷室は「まぁまぁかな」と答え、青峰の元にやって来た。瓶を渡しに来たのかと思えば、氷室は薄い白濁色の酒をまずは自分の口に含んだ。それからソファに片膝を突いて青峰の肩に手を掛け、ゆっくりと顔を近付けてきて唇を触れ合わせ、口移しに酒を青峰の口内に注ぐ。確かにこの男との口付けは初めてのはずなのに、なぜだかそんな気がしなかった。大して度数の高くないはずの酒は、媚薬でも入っているんじゃないかと思うほどに青峰の喉と胸を熱くする。 「まったく警戒心ないんだね」 氷室はガラステーブルの上に瓶を置き、青峰に手を伸ばした。ただでさえサイズの小さいバスローブを着ている上に足を組んでいたため、ローブの前は肌蹴ていて太腿から下はほとんど丸出しだ。べつに恥じらう必要もないので気にもせずにいたが、氷室の行動にはさすがに驚いた。伸ばされた氷室の手は青峰の股間に伸ばされ、組んだ足の隙間から見えているのであろう陰嚢を掬うように手の中に収めた。 「っおい……」 「ビックリした?」 明らかに誘っている風な目線を落とし、ふふと笑った氷室は手の中のそれをやさしく揉み始めた。堪らずに青峰は氷室の頭を強引に抱き寄せて、深く、口付ける。 「あんた、ヤる気満々じゃん」 「だって、知りたいんだ」 「……何を?」 「べつにキミじゃなくて黄瀬くんでも良かったんだけど」 「あ?」 何気に失礼な男だなと思ったが、青峰は黙って次の言葉を待つ。 「タイガと同じ高みにいるキミたちと、オレとの違い」 「…………」 嬉しくも楽しくもなさそうに、けれど氷室は小さく笑った。 |