2/3 『あっあっ、ああぁぁー、んんっ……イク、イっちゃうぅぅっ!!』 若い女の嬌声が部屋中に響く。大きく足を開かせた女の股にペニスを埋め込んだ男が腰を打ち付けている。パン! パン! パン! と肌を打つ音が動きの激しさを物語っている。大きなテレビ画面に映し出されたAVチャンネルは、真剣に見ているわけではなく、ラブホだし無料だからと何となく流されている。 「黄瀬君とじゃ出来ないこと、してもいいよ」 と、氷室は言った。突然そう言われたところでじゃあ、と思い付くはずもなく、青峰は眉を顰めた。 「黄瀬とじゃ出来ないことって、例えば何だよ?」 「例えば? そうだな……今までしたことないプレイ、とか?」 薄く笑う氷室のあからさまな言葉に、青峰の眉がさらに歪む。陰嚢を揉んでいた氷室の手はその上のペニスへと移り、すでに形を変えているそれを握って扱き始めた。両膝を開いて、ソファに座る青峰に跨るように乗り上がり、空いている方の腕で青峰の頭を抱けば、氷室の上半身が顔に密着する。青峰は氷室のバスローブの合わせ目を開き、現れた乳首を舌先で突いた。 「あ……っは……ぁ、ん」 艶っぽい声が青峰の耳元に落ちて、氷室の手の中のものがぐんと硬さと大きさを増した。ふふ、と笑った氷室の声はやけに耳障りで、余裕ぶった笑いなどできないようにと左右の突起を交互にしゃぶると、氷室は目を閉じて短い声を上げ始めた。扱かれたペニスはいつでも挿入可能な状態で、このまま正面から抱きかかえたまま挿れても構わないはずであったが、青峰の頭の中はどこか冷静だった。 黄瀬ともしたことのないプレイ、とは? あの単純で純粋そうな氷室の恋人・火神大我がアブノーマルなセックスをするとは到底思えない。単に氷室がそういうことに飢えている”すきもの”なのか、或いは―――。 青峰の目には、氷室がどこか自棄になっている風に映った。 「アンタがどんなイメージ持ってんのか知んねーけど、案外ノーマルなんだわオレ。つか、今日だけの関係だろ? 突っ込んで出せりゃそれでいーんだけど」 「意外とつまらない男なんだな、キミって」 「…………」 つくづく失礼な男だ。こめかみに血管が浮き出るほどにイラっとしたが、それと同時に煽られている、とも感じた。 「わぁーったよ、火神のヤツが下手くそで物足んねーからオレとヤりてーんだろ? なぁ?」 「……何?」 瞬間、殺気すら覚えるほどの鋭い視線で見下ろされ、煽り返したつもりの青峰は思わずビクッと肩を揺らした。恋人を侮辱されたのが気に食わないのか。実に面倒くさい男と面倒なことになったものだ。ついさっきまで妖艶だとさえ思っていたのに、一体火神はこの男のどこがいいのだろうか。日頃キャンキャンと吠える犬のように煩いと疎んじている黄瀬が、今は本当に可愛く思える。 「めんどくせぇ男だな」 ハァ、とため息を吐いて、青峰は氷室の両腕を自分の首に絡ませた。「しっかり掴まってろよ」と声を掛け、跨る氷室の両足を抱えて立ち上がる。たった今、殺気立った目で睨み付けてきたというのに、氷室は青峰にぎゅう、としがみ付いてきた。なぜだか心臓がドクンと高鳴ったことに、妙に焦りを感じる。青峰はベッドの足元まで辿り着くと抱えていた手を離し、しがみ付いた腕を解いて氷室を乱暴にベッドに放ると自身もそこに乗り上げた。 「望みどおりにしてやるよ」 無造作に放り投げられた氷室のバスローブの腰紐を強引に解き、自身のそれも手早く解く。五センチほどの幅のワッフル地の紐を二本手にした青峰は、ちらとテレビ画面を見た。AVチャンネルはさっきとは違う話に切り替わっている。画面では、手足を拘束され、ピンポン玉大の口枷を咬まされた女が性器に指を激しく出し入れされて、「うー、うー」と口枷の隙間から声を洩らしていた。 「こーゆーこと、してーんだろ?」 さして興味もなさそうに、青峰はテレビを顎で指して氷室を見下ろした。氷室は肯定も否定もせずに、ただ、薄い笑みを浮かべる。「ちっ」と小さな舌打ちをすると、青峰は氷室の両手首を束にして掴み、腰紐のうちの一本で手首をきつく縛った。そうしてからこれではバスローブを脱がせることが出来ないという事に気付いたが、今さらだ。 「痛いか?」 「いや、平気」 「どうなっても知んねーぞ」 「望むところだよ」 答えた氷室が口の端を上げて笑む。なんでそんなに挑戦的なんだよこっちはべつに望んじゃいねーのに、と口には出さず、青峰は「ハッ」と失笑した。 もう一本の紐は、口枷の代わりに使った。氷室の後頭部から紐を巻き、口元で二回ほど縛るとその結び目は画面の女が咥える口枷より大きくなったが、青峰はそれを無理矢理氷室の口に詰め込んだ。さすがに苦しいのか、氷室が眉を顰める。だがこれで、悪気があるのか無いのかよくわからない失礼な発言もできなくなるだろう。 「ったく、趣味じゃねーことすっから萎えちまったじゃねーか」 さっきまで硬く勃起していたはずの青峰のペニスは幾分萎えて、まだ慣らしてもいないアナルへの挿入は難しそうだ。「とりあえず」と言いながら、青峰はローテーブルの上に予め置いていたローションのボトルを取り、蓋を上げて指先に垂らした。肌蹴かかったバスローブを乱暴に左右に開くと、勃起して上を向く氷室のペニスが現れた。青峰の口から思わず「クッ」と笑いが洩れる。いくらかの羞恥に氷室は少し面白くなさそうに顔を背けた。 「アンタ、マジでこんなことしたかったんだな」 顔を背けたまま答えない氷室の右ひざを左手で持ち上げながら開くと、自然と右ひざも持ち上がり、大きく股が開かれた。青峰はローションを纏った指先を尻の入口に宛がい、ゆっくりと挿し入れる。風呂で中を洗ってきたであろうそこは案外容易く青峰の指を招き入れた。さらに二本目の指も少し強引に捻じ込むと、氷室の口から「む、ぅ」というくぐもった声が洩れた。グチョグチョと音を立て始めたそこは次第にやわらかく変化していく。中で二本の指を蠢かすと、思い通りに出せない声を洩らしながら、氷室は腰を浮かせた。同様にくぐもった喘ぎを洩らし続けるテレビ画面の女の声が、突如大きくなった。ふと見れば、女は股にバイブレーターを突っ込まれ、ビクビクと体を震わせている。 「おいおい、バイブなんかねーぞ」 どうすっかな、と視線を氷室に戻してその表情を窺うと、さっきまでの挑戦的な眼差しは何処かへと消えて、乞うような瞳で青峰を見上げてきた。どくん、と心臓が鳴り、それと同時にペニスが大きく反応を示す。バイブレーターなら、この部屋の自販機で購入することができる。買ってしまおうか? という思いが頭を過ぎり、テーブルの財布に目をやったその奥に、青峰は、あるものを見つけた。 「氷室サンよぉ……」 指先が尻から引き抜かれ、氷室の口から「ん……っ」という小さな声が洩れる。 「オレの趣味じゃねーけど」 青峰はベッドから下りた。テーブルの上にある何かを取ったようだが、背を向ける大きな体が死角となって、氷室からは見えない。あられもない姿を晒されて、それに素直に感じてしまっているこの体に、彼はさらに何を施すというのか。少しの不安は、寧ろ氷室の体を疼かせる。 「アンタは好きなんじゃねーの? こーゆーの」 振り向いた青峰が手にしていたのは、ついさっき氷室が飲み干したスミノフの瓶だった。氷室の瞳が大きく見開かれる。それを一体どうしようというのか容易に想像はついた。青峰は瓶の飲み口にローションを塗りたくっている。一抹の不安が情欲へと変わっていく。氷室は閉じていた足を自ら開いた。 ひんやりとした無機質な塊が、窄まった氷室の尻の入口を開く。ぬるりと先端を咥え込んだその様は何かの生き物の捕食に似ているなとふと考えて、それがテレビか何かで目にしたイソギンチャクであることを青峰は思い出した。何やってんだオレ、と自嘲気味な笑みを浮かべたが、氷室の不安げな、いや、勘違いでなければその先を待つような目線にぞくりとして煽られて、ゆっくりと瓶を奥へと挿し進めた。 「んん……んっ」 自由にならない口に詰め込まれた布地の隙間から、声が洩れる。瓶は飲み口から五〜六センチのところから倍以上に太くなる。さすがに他人の尻穴を傷付ける気はないと、青峰はそれ以上の挿入を止め、細い部分だけで出し入れをし始めた。 「ん……っむ……ぅう……んっ」 瓶の動きに合わせるかのように声を洩らす氷室のペニスはいまだに勃起したままだ。青峰は空いている方の手で、ベッドの上に転がるローションのボトルを取って、蓋を押し上げる。 「氷室サン、手ぇ出せよ」 言われたとおりに縛られた両腕をのろのろと差し出すと、青峰は氷室の手のひらにローションを垂らした。 「ワリーけどオレあんま器用じゃねーんだわ」 手のひらから溢れたローションはぽたぽたと滴り落ちて、氷室のペニスと陰毛を濡らす。「自分でなんとかしてくんね?」という青峰の言葉に答えることなく、氷室は素直に自身のものを両手で握り、扱き始めた。 何だよこれ……と、青峰は心の中で呟いた。眼下で氷室は、大きく股を開いた尻の穴に瓶を突っ込まれながら、縛られた両手で夢中で自身を扱いている。猿轡を咬まされた顔は、早く快感を得たいと淫らに歪んでいる。生々しい光景に、自分がひどく興奮していることに気付いた。滅茶苦茶にしてやりたい―――。そう思わせる要因は、もうずいぶんさっきに感じた『妖艶』さの所為にすればいい。 小刻みに出し入れを繰り返していた瓶を尻から抜くと、瓶の中に空気があるからか、ポン、という軽い音がした。と同時に氷室の口から「んっ」という声が洩れて、開いていた両膝が力なく閉じていく。青峰は瓶を床に置き、硬く勃起した自身のペニスにローションを塗ろうとボトルを手にしたが、何かを考えるように少しの間を置いてから「クソ」と呟きベッドから下りた。氷室はその様子を知ってか知らずか、クチュクチュと音を立てながら、両手で自身を扱き続ける。ベッドから下りた青峰がテーブルの上から取り上げたのは、コンドームだった。強引に突っ込みたいと思った瞬間、何故だか黄瀬の顔が脳裏に浮かび、生で挿入することを躊躇った。柄にもなく恋人に義理立てしている自分はダセぇな、と嘲りながら、青峰はコンドームの封を切ってゴムを取り出し、慌ただしくペニスに被せる。 氷室の両足を再び開かせて、青峰は半ば強引に氷室の尻にペニスを挿入させた。今の今まで瓶を咥えていた入口は、瓶よりもはるかに太い青峰のそれをいとも簡単に飲み込んでいく。ゆっくりと挿入し、奥まで入ったことを確かめた青峰は動きを止めて、氷室を見下ろす。絶頂を迎えるべく必死で自身を扱く姿を見下ろされ、氷室はイヤイヤをする風に何度も首を左右に振ったが、それでも手は動き続けている。青峰は、埋めたままのペニスにぐっと力を込めた。尻の中でびくん、と大きさが増すと、同時に氷室の腰もビクッと揺れる。「んっ、んっ、」と洩れる声の感覚が短くなったのは、限界が近くなっているからだろう。青峰はもう一度力を込め、そこに熱を送った。 「ん……っ」 氷室のペニスの先端から精液が飛び散る。いくつかの飛沫は胸にまで達し、残りが氷室の手のひらを汚す。青峰は手を伸ばし、氷室の口を塞いでいた腰紐を口内から取り出して、解いた。途端、「はぁ、はぁ、」と、苦しげな声が洩れたかと思うと、氷室は潤んだ瞳で青峰を見上げ、精液塗れの縛られた両手を差し出した。 「青峰君の……早く……」 「……っ……」 理性の糸などとうに切れていたが、それとは違う何かが胸の奥でぷつりと音を立てて切れたような気がした。青峰は氷室の両足を抱え上げ、強く腰を打ち付ける。 「あっ、ああぁ……っ、青峰君……っ、イイ……っ!!」 自由になった氷室の口からは、絶え間なく嬌声が上がった。 |