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「お祭りでいっぱい食べたから平気アル」 「ってか、何でお前オレの部屋来てんだよ。明日も朝練だぞ、早く風呂入って寝なきゃだろ」 「ンー……」 バッグを机の上に置き、ワイシャツを脱いでその下に着ていたTシャツ姿になったところで、それまで立ち尽くしていた劉は、福井の手を掴み、それからそっと、指を絡めた。 「手、繋ぎたかったアル」 「あー」 そうだったな、と福井も手を握り返す。斯くして二人は部屋の中で恋人繋ぎをしたのだけれど、それだけでは足りるはずもない。自然と顔が近付いて、唇が、触れる。劉の空いている方の手が福井の体を抱き寄せて、口付けは、より深くなる。繋いだ手が離れ、両腕で強く抱きしめ合ううちに、心も、体も、次第に変化する。唐突に体を離した劉は、福井をひょいと横抱きにして抱え上げると、その体をそっとベッドに横たわらせて、自身もベッドに乗り上がった。 「お、おい……何する気だ?」 「したい、アル」 「ちょ、待てよ! 部活終わってそのまんまだぞ? 風呂も入ってねーのにっ」 「そんなの……どうでもイイ」 「……っ」 仰向けの福井に覆い被さって、劉は性急に唇を重ねた。口付けながら、Tシャツの裾から入れた手で平たい胸を撫でれば、やがて小さな突起に手が触れて、福井の体が大きく跳ねる。それを指先でくりくりと摘まむと、塞いだ唇の下から「んんっ」という吐息が洩れて、福井は体を捩った。さらにもう一方の手も忍ばせて、両手で乳首を弄れば、ビクンビクンと体を震わせながら、福井はイヤイヤをするように顔を左右に振って、劉の口付けから逃れた。 「……ってお前、ガッツキ過ぎだろ! 落ち着けよ」 「でもほら、福井、もうこんななってるアル」 「!!」 劉の手が、福井の股間をズボン越しに覆った。そこはすでに少し盛り上がっていて、福井の昂りが表れていた。 「こ、れはっ」 「福井、と、一緒にいたいアル。ずっと、一緒がイイ……これ、ワタシのジョーチョな気持ちアル」 「劉……」 情緒の意味を盛大に勘違いしていたが、その想いは、痛いくらいに伝わってくる。 一緒にいたい、離れたくない、寂しい、気持ち。 あのな、劉。それは、オレも同じなんだよ。 「ズルいよなぁ、お前は」 「ズルい?」 人が言いたくても言わずにいる事を言ってしまえる、愛しい後輩。 「いや、何でもねーよ」 「じゃ、続けて……イイ?」 「ん、でも、挿れんのはナシな」 「エッ? 何で!?」 「来週インハイだろーが。ケツが痛くて走れねーとかマジ勘弁だかんな」 「ンーー……」 性欲を満たすことも望みではあるが、バスケの試合はもっと大事だ。福井同様、それは劉にとっても変わらない。 「しょーがねーアル」 「しょーがねーじゃねーだろ」 仕方なさそうに口を尖らせた劉の額をペシッと叩くと、劉は「イタイ」と言って額を擦って、それから小さく笑った。
二人でイったら制服が汚れるからと、服は全部脱いだ。いい加減に脱ぎ捨てた二人分の制服が、ベッド脇の床に散乱している。触り合って、扱き合って、最終的には二人とも自身のものを扱いて互いに自ら射精した。 「乗っかって平気アル」 いつの間にか上下が入れ替わっていて、仰向けになった劉の上に乗ってもいいというので、福井は果てるようにその大きな体に全身を預けて覆い被さった。腹にも飛んだ精液が密着した体の間で、ぐちゃぐちゃに交わる。 「福井……」 「ん?」 「好き」 「えっ? お、おう」 「好き、福井」 嬉しいのに、何故だか寂しい。 ずっと、が、無いからだ。 「オレも好きだよ、劉」 愛しい後輩の唇に、福井はそっと、口付けた。
インターハイは、結局三位に終わった。 そして、五か月後のウインターカップは準々決勝で敗退し、福井にとって高校生活最後の大会が終わった。 それからすぐに年が明けて、三年生の福井は受験期に入った。同じ寮に住んでいても、一度も顔を合わせない日もあった。もう、二人には時間がないのに。 それでも、福井にとって邪魔な存在にはなりたくなかった。本当は毎晩でも抱きしめたい気持ちを抑え、劉はその想いを部活でバスケにぶつける日々が続いた。
〈無事、合格!〉 そんなメールが劉のスマートフォンに届いたのは、二月の終わりのことだった。すでに二校ほど合格はしていたが、今回の東京の大学が、福井の本命であった。 「おめでとうアル」 と、笑顔で言えた。 「我慢させて悪かったな」 と、福井も照れくさそうに笑う。 キスをして、抱きしめ合って、セックスに明け暮れて。 やがて福井は陽泉高校を卒業し、退寮の日を迎えた。 何の約束もしなかった。する必要もないと思った。この感情は、思春期の性欲が生んだ若気の至り。今度会う時には、ただの部活の先輩と後輩になればいい。 「次こそ優勝しろよ」 「優勝して、福井を羨ましがらせるアル」 そんな些細な言葉で、劉と福井は呆気なく別れた。泣きそうになったけれど、涙を堪えて明るく笑った。 福井を見送った劉は、戻った寮の部屋のベッドで枕に顔を埋め、声を上げて泣いた。 何度も抱きしめ合ったベッドには、まだ、福井の匂いが残っているような気がした。 |